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こころとからだの健康(14) 遊びから学ぶ幼児教育、子育て習慣および期待される人材

 この数十年の間に子育てに関する社会環境は大きく変化しました。核家族化や男女共同参画社会の進展など、例を挙げればきりがありません。そうした現代社会において最も懸念されるのは、子育てをする親が孤立してしまうことです。そこから多様な悲劇が起こるとも限りません。昔は大家族、そして近所に子どもの遊び場が沢山あり、親子ともども自然に地域コミュニティーが形成されていました。しかし、都市化と共にそうしたコミュニティーは徐々にその姿を消し、結果として子育てについて気楽に相談できる環境も減少しています。子育てには周囲のサポートが不可欠です。家族の協力は勿論のこと、地域社会の協力も必要です。どれだけ時代や社会環境が移り変わっても、「子どもは一人で育てるものではない」ことに変わりはありません。
 そこで、幼児教育の基礎と子育て習慣について考えました。現在、子育て中の保護者の参考になれば嬉しいです。(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)

幼児教育の基本~人間形成の基盤を成すこころの教育とは
 この地球上にて生を受けた人間は地球の恵みに感謝し、自然の恵みを大切にする。そして、自分自身を愛し、家族、友だちを愛し、社会、地球を大切にできる。そんな人間らしさと幸福感に満ちた環境にて子どもを育て、次代に繋いで行く。それが親の責任だと思います。子育て並びにヒトの本質はいつの時代も同じであり、それは「遊ぶこと」です。遊びの環境を設定し、育てるのが保護者の役割です。
 多様な遊びは様々な体験・体感を通して、生きるこころと力、いのちを大切にするこころ、他者を思いやるこころを学びます。これが人間形成の基盤を成すこころの教育であり、人としての基礎となります。
 そのためにも、「教育」を共に育むとした「共育」のこころを持つことです。父親、母親の育った環境とこれからその子どもが育つ環境では20年以上の隔たりがあり、それと共に成育環境は大きく変化しています。したがって、子どもの目線で子どもの育つ時代の環境にて子どもを育むことが大切です。
人の本質
遊びから学ぶ子育て
 人間には「言語的知性」「音楽的知性」「絵画的知性」「論理数学的知性」「身体運動的知性」「感情的知性」「社会的知性」という8つの知性があると言われています。これらの知性は就学前の4~5歳前後をピークとして形成されるもので、「遊び」によって育まれます。人間の知性、こころは脳の活動に直結していますので、就学前こそ、幼児教育に必要な多くの遊びや体験・体感によって、豊かな知性を育むことが重要で、それが成人になって一つまたは複数の知性が大きく育つ要因になります。
 多くの親が子どもの「教育」について悩んでいるようですが、子育てには迷いや不安はつきものです。難しく考える必要はありません。なぜなら、子どもの成長に最も必要なのは、この「遊び」だからです。とくに幼少期の教育は「遊びの場を用意してあげること」くらいに考えて丁度良いのではないかと思います。お父さん、お母さんはまず、子どもと一緒に遊んであげることから始めましょう。楽しそうな親の姿を見ると、子どもはもっと楽しくなります。そうすると図に示しましたが、好奇心・集中力が増し、さらに多くの事を遊びから吸収するようになります。それが創造力や自発性、課題発見力、さらには生きる力へとつながっていくのです。
 もちろん、親も子どもが遊ぶ中から学ぶことは沢山あります。よく言われることですが、やはり教育は「共育」、育児は「育自」なのです。ぜひ「子どもと」遊ぶ中で「子どもを」学んでください。学びに対する親の姿勢は、必ず子どもに受け継がれていきます。“共育の質の向上は人生の質の向上を担保する”ように子どもとその家族はそれぞれの道、人生に一つの目標・志を持ち、前向きに生きるこころを身に付けます。そして、“社会が求める人間力”が育まれます。
人間としての基礎力
社会が求める人材
 “社会が求める人間力”とは図に示しましたように、3つのパワーから成ります。これは社会・国家が求める人材であり、この基礎が幼児期の「遊び」から養われます。人間社会で生きる上で重要なこの3つのパワーとは、①前に踏み出す力(action power);すなわち、主体性を持って前向きに働きかける力、実行力、②考え抜く力(thinking power);すなわち、課題発見力、計画力、創造力、③チームで働く力(teamwork power);すなわち、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、起立性、ストレスコントロール力が身に付きます。これらの基礎力を身に付ける上で基本となるのが、以下に挙げた家族の子育て習慣です。

父親・母親の良い子育て習慣
1.家族の間で、朝起きたら「おはようございます」と言い、毎日挨拶を欠かさないようにしましょう。また、一日に最低一度は食事など団欒の時間を作りましょう。
2.家族は毎日きれいな言葉を使うように努力しましょう。子どもに「お前」「てめえ」「がき」などの汚い言葉で呼ばず、一人の人間として人格を尊んで名前で呼んでください。
3.家族はすべて一人ひとり、お互いに人として尊敬し合い、お互いが感謝のこころを持って接するように努力しましょう。
4.家族は一つの組織です。一人で頑張らないで家族で協力・分担して、日常的に楽しく笑顔を絶やさないよう前向きに生きる努力をしましょう。また、子育てを応援してくれる良い友達を複数持ち、コミュニティーを大切にしましょう。
5.子どものこころの痛みを自分のこころの痛みとして感じる「思い遣り」のこころを持ちましょう。また、子どもとのスキンシップによるコミュニケーションを大切にしましょう。
6.お互いを理解し合い、人の言うことをよく聞きましょう。また、何でも相談し合える環境を創るよう努力しましょう。これらが人間関係を形成していく上で大切になります。
7.子どもを泣かすより笑顔を引き出すように努力しましょう。子どもが病気でもないのに泣くのは、悲しいか、怖いかのどちらかです。子どもの気持ちを理解することが大切です。
8.子どもが良いことをしたときや、言うことを聞いたとき、頑張ったときなどは積極的にほめてあげましょう。叱りつけるよりもほめることを優先し、子どものやる気・意欲・能力を引き出すように努力しましょう。「教育」とは「引き出す」という意味でもあります。
9.自然に接する機会をたくさん作り、体験・体感を豊かに育てましょう。ノーベル賞学者など世の中の偉人と呼ばれる人のほとんどが、幼児期には遊びの多い自然の中で育っています。
10.「sense of wonder」という言葉があります。これは「不思議さや神秘さに目を見張る感性」を指し、子どもの教育に大変重要です。子どもは成長過程で様々な体験・体感を通して好奇心、自発性、創造力をからだとこころで育みます。

参考図書
近藤雅雄:子育てハンドブック、Tokyu Child Partners、東急グループ、2015
澤口俊之:幼児教育と脳、文春新書、2004
浜尾実:子どもを伸ばす一言、ダメにする一言、PHP文庫、2001
(近藤雅雄:平成28年5月8日掲載)

こころとからだの健康(8)肥満対策

 肥満とは単に体重が多いということではなく、脂肪量(中性脂肪)が過剰に蓄積した状態をいい、脂肪が増量している組織および場所(分布)によって皮下脂肪型(下半身型、洋梨型)肥満と内臓脂肪型(上半身型、りんご型)肥満に分類されます。生活習慣病との関わりがあるのは内臓脂肪型肥満です。
 肥満発症の原因は①食べ過ぎ、②誤った食事パターン、③運動不足、④遺伝、⑤熱産生機能障害などが挙げられますが、生活習慣による影響が多いことが分かっています。

1.肥満のメカニズム
 肥満のメカニズムの研究は1994~1995年に肥満の遺伝子およびその受容体遺伝子などが相次いで発見され、漸く肥満のメカニズムの概要がわかってきました。ヒトの体重は身長に対して設定されたように遺伝子によって食欲や消費エネルギーが調節されています。その調節には主に①レプチン(白色脂肪細胞から内分泌される蛋白質で摂食中枢を抑制する。すなわち、もう食べなくても良いという信号を脳に伝える。レプチンとはギリシャ語で“やせ”の意味です)、②レプチン受容体(視床下部の摂食中枢に存在する)、③β3アドレナリン受容体(エネルギー倹約遺伝子)、④脱共役蛋白(UCPファミリー;ミトコンドリア内膜に局在する蛋白で、ATP生産を伴わずに熱産生を行う)などが関与し、これらの遺伝子の異常と様々な環境要因が肥満を発症させる原因となります(肥満に関連した遺伝子は約70種類存在するという)。
 近年、急速に肥満者が増加(とくに小児の肥満が多い)し、社会問題となっていますが、その原因は過食や運動不足などが考えられます。

2.小児肥満の対策
 小児肥満の問題点として、①成人肥満への移行、②生活習慣病の発現、③いじめの対象となるなどがありますが、これらの対策として、こころの教育が最も大切です。小児肥満は、①家族、学校での教育(共育)、育児(育自)、②食生活改善、③糖質、脂質の摂取量を減らす、④積極的に運動を奨励する、⑤ダイエットの自重などによって予防することができます。

3.食事と健康
 こころとからだの健康を堅持していくために最も重要なのが食です、日頃から食に対する考え、興味を持ち、栄養についての正しい知識を身に付けたいものです。
 栄養は生命を維持するために必須な行為であり、その目的は生体機能の調節、生体組織の修復・再生、体温生産およびエネルギーの獲得などです。栄養素の摂取が十分であるかないかは、年齢に適した発育(身長・体重)、日常作業に十分見合った体力(作業能力)、病気に対しての抵抗力(免疫力)、などによって栄養状態が判定されます。
 これらの栄養状態が適正であるためには栄養素の過不足がないようにバランスよく食事摂取することが重要です。特に、食事は日常の生活習慣に欠かせない現象であり、生活習慣と深くかかわる病気の予防や改善のためには、毎日の食生活、食事に気を配ることが重要です。

4.肥満を誘発する原因が氾濫
 近年、24時間営業のコンビニエンスストアで外国の食材、加工食品、健康食品が氾濫し、気安く購入できることから需要が急増しています。しかし、これらの食品には一時のファッション的な、科学的裏づけのないものが多く出回っています。また、外食産業が発展し、今や欧米と同じように日本人の食生活並びに健康管理は個人に委ねる時代となりましたが、その結果、日本人の肥満人口が増加し、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病が蔓延することとなりました。

5.太らないための10か条
 肥満は①生活習慣病に直結する、②免疫力が低下する、③動きが鈍くなる、④息切れがするようになる、⑤やたらに汗をかく、⑥寿命が短くなる等、デメリットが多く、メリットがあまりありません。私も、青年期に56㎏であった体重が、中年期には過食と運動不足によって70kgと過体重となり、様々な生活習慣病を発症すると共に、先に挙げたデメリットが出てきました。そこで、健康について意識するようになり、これまでの生活習慣、特に食に対する意識を変え、日本人本来の日本型食生活に変えてから体重が減少し、現在は青年期の56㎏に戻すことに成功すると同時に生活習慣病もなくなりました。以下に、私の経験に基づき作成した太らないための条件を挙げます。

太らないための10か条
1)自分の体質を知る
2)1日3食、時間をかけて楽しくいただく
3)食塩、脂肪類は控えめに
4)刺激物、甘物、アルコール類などの嗜好品は控えめに
5)毎日野菜、海産物を多く食べる
6)寝る2~3時間前までに食事を終える
7)1日30分以上の運動(有酸素運動、徒歩1万歩)を行う
8)からだをこまめに動かす
9)体重計に乗る習慣をつける
10)入浴中は腹式呼吸を行い、ストレス解消を図る

6.健康度に対する健康指数
 標準体重は身長(m)×身長(m)×22によって、また、肥満度(BMI:体格指数)は体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)によって求められます。評価は、BMI 18.5~25が正常で、18.5以下がやせ、25以上が肥満です。やせすぎの場合も病気の罹患率が高く、BMI=22が最も病気の罹患率が低いと言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(7)摂食障害

摂食障害 拒食や過食などの摂食障害は年々増加の傾向にあります。その病因は成熟恐怖や家族問題などの心理的要因(心因説)、摂食調節因子異常などの生物学的要因(身体因説)、ダイエット流行などの文化・社会的要因(文化・社会因説)などが考えられ、また、これらの要因が相互に関連しあって発症する多元的モデルが広く受け入れられています。
 一方、拒食と過食は相反するもののように捉えがちですが、拒食症から過食症に移行するケースが約60~70%出現し、「極端なやせ願望」あるいは「肥満恐怖」などが共通し、病気のステージが異なるだけの同一疾患と考えられています。

1.拒食症(神経性食欲不振症、神経性無食欲症)
 とくに若年層(思春期)の女性に多く、また、先進国に多いことから文化的要因も含まれていることが推測されます。
 この病気は体重増加への強い恐怖心を持つものが多く、その発症には第2次性徴期における特有のこころとからだの成熟のアンバランスからくる不安定な心理状態が関与しているといわれています。症状としては、女性の場合は拒食のために体重減少(標準体重の-20%以上)、無月経、性ホルモン低下、糖質コルチコイド(ステロイドホルモン)上昇などを引き起こし、「うつ」に移行することもあります。また、時には隠れ食いをしては嘔吐を繰返すこともあります。重症例では死亡することもあります。

2.過食症(神経性大食症、神経性過食症)
 過食症の場合は1週間に2回以上ヤケ食いやドカ食い(俗に週末過食症候群などと言われる)が見られ、結果的には肥満(単純性肥満)となりますが、体重増加を止めるため食べたあと吐くこともあります。原因は不明ですが、認知行動療法(体重と自己評価)や抗うつ剤が効く場合もあるということです。
 拒食症や過食症はこころの病が中心であることは間違いなく、その治療には、体重を調節するだけではなく、摂食障害についてよく理解し、ストレスとなる原因を早期に発見、その対処を考えることがなによりも大切です。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(6)ストレスと心身の障害

ストレス 現代社会はストレスに満ち溢れ、社会生活上、学校、会社、家庭内などでよく遭遇する不安、悲しみ、失望、恐怖、また、突発的な事件に巻き込まれたり、大きな災害に遭遇したりなど、後天的にこころが傷害されることが多く見られます。これは日本が抱える課題の一つである自殺者の増加と決して無縁ではありません。
 こころが健康であるということは、感情(気持ちや気分)と精神(理性)が健全で、社会と調和した生活を営んでいる状態と言えます。このような状態から外れるとこころの健康に異変が生じ、やがて「こころの病」へと進展します。
 ストレスが原因で起こる「こころの病」の代表が「心身症」「神経症」「うつ病」ですが、これらは関連している部分も多く、厳密に区別できないことがあります。この中で、「うつ病」はこころの風邪と言って誰でもなる病気ですが、年々患者数が増加し、放置すると自殺へと進展するので、予防医学上早期対策が望まれています。
 一方、からだの疲労がこころの疲労に移行する「累積疲労」が知られています。また、「慢性疲労症候群」も知られていますがこれらこころとからだの疲労には必ずその原因が存在します。まずは、睡眠時間を十分に確保し、成長ホルモンの分泌を高め、疲れを解消してから、疲労の根本となる原因について相談し、早めに除去または対策を講じることが必要です。

1.心身症
 心身症はどの年齢層でも発症しますが、特に働き盛りの中高年齢者に多く見られ、こころの過度の負担(心理的、社会的ストレスが過剰に加えられた状態)が、内臓諸臓器に器質的ないし機能的障害となって現れる病気を言います。例えば、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、神経性狭心症、自律神経失調症、円形脱毛症、睡眠障害、片頭痛、高血圧症、糖尿病、気管支喘息、更年期障害、性機能不全症、メニエール症候群、単純性肥満、慢性関節リュウマチなど多くの病気が関連し、ヒトによって病状は様々です。心身症はストレスとうまく付き合うように工夫し、早めに病気の原因を取り除くことによって、様々な病気の発症を未然に防ぎたいものです。

2.神経症
 神経症は性、年齢に関係なく発症しますが、特に10歳代後半から30歳代にかけて起こりやすい病気です。神経症の発症には心理的・社会的ストレスが大きく関与し、精神・神経症状として現れるもので、一般にノイローゼと言われています。心身症と異なり、内臓諸臓器には異常が認められません。また、躁うつ病や統合失調症のような内因性の精神病と異なって幻覚や妄想は見られません。
 神経症には①絶えず漠然とした不安感を持つ不安神経症(パニック障害)、②ささいな病状でも重病と思い込む器官神経症(心気症)、③自分の意思に反してまるで強迫観念に取り付かれたようにある行為や考えから抜け出せない強迫神経症、④対人恐怖や赤面恐怖、異性恐怖などの恐怖症、⑤健忘状態になったり、人柄が急に変わったり、無表情になったりする精神的症状および座れなくなるなどの運動麻痺や物が見えない、耳が聞こえないなどの知覚麻痺が起こり、これがヒステリーとなって現れることがあります。これらの根底には不安が共通して見られますので、不安となる原因を除去または考え方を改めることが早期治療につながります。

3.うつ病
 うつ病は近年増加傾向にあり精神心理的、社会的ストレスが発症や増悪に深く関与する病気で、脳の心身症とも言われています。発症年齢は時代と共に低年齢化し、20歳から50歳代で発症し、女性の方が男性に比べ約3倍高く、我が国の自殺増加との関係からもその対策が急がれます。女性では産褥期や更年期に比較的発症頻度が高いと言われています。
 うつ病の発症機序は不明ですが、こころとからだを活性化するセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経化学伝達物質の減少によって引き起こされると考えられています。したがって、薬物療法としてSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)を投与し、シナプス内セロトニン濃度を増やすための療法が中心となります。診断基準としては、米国精神医学会が作った診断マニュアルやWHO(世界保健機構)が作ったものがあります。
 表に示した様に、うつ病の症状は神経症や心身症とうつ病と神経症似た点も多く見られますが、生きる気力がなくなり、こじらすと自殺につながることが特徴です。うつ病患者の自殺率は高く、患者の14~37%が自殺企図し、15~25%が自殺する。合併症として不安障害、アルコール・その他の薬物乱用、社会恐怖、人格障害、摂食障害などが知られています。うつ病の場合は薬(抗うつ剤)や休養をとり、安心(癒し)を与え、治る病気であることを認識することが重要であり、励ましや叱責は本人の気持ちを追いつめることになり逆効果となります。予後は良好ですが、患者の約20~30%は慢性化すると言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

食生活と栄養と食育

戦後70年における「住」「食」環境の変化がもたらしたもの
 戦後の経済や生活環境の発展は言うまでもないが、ここではとくに生活の根本的な「住」と「食」との部分での変貌について展望する。
 戦前までの日本は3世代や4世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていたが、戦後は、核家族政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立、これが現在、定着するようになった。そして、代々引き継がれてきた様々な伝承が時代とともに薄れ、集団から個人の社会へと変化した。
 とくに、食生活の面からみると日本が長い年月を通して形成してきた日本型食生活から、西洋・中国・東南アジアなど世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代となった。
 このように「食」と「住」という根本的な部分での生活様式を大きく変え、先進国の一員として競争・発展してきたが、逆に、今日では、日本は世界で最も自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な環境に対して無関心な国民が増加している。また、貧富の差が増し、少子・高齢化という少数単位での生活環境がからだとこころをますます脆弱化している。

次代をになう乳幼児・子どもの生活・行動の変化
 近年の核家族・少子化に伴って就労女性が増え、育児休暇などの問題が噴出するようになったが、現実は育児休暇をとることは難しく、そこで託児所や保育園が急増するようになった。しかし、最近の厚生労働省研究班の調査では「保育園で過ごす時間の長さは子どもの発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが子供の発達を左右する」という結果(とくに乳児期に神経細胞が急激に増殖するため、この時期に正しい栄養や生活環境を獲得しておかないと神経回路の形成に影響が出るといわれる)を報告している。
 子どもたちはといえば、親を含めた社会の期待が学力中心の過保護社会へと変化し、塾通いをする一方で、狭い居住空間に閉じこもってコンピューターゲーム、テレビ、マンガに夢中になり、からだを動かさない生活やレトルト食品、コンビニ食品を摂取するという生活様式が定着し、子どもの知力、体力、運動能力の低下が問題となっている。
 さらに、最近の子どもおよび若者は感動することおよび感動して涙を流すことが少ないと言われている。涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間としての特有の生理現象である。涙を流すことによって心が洗われるとよく言うが、最近のTVでも現在の人間模様を反映してか、一過性の虚楽を求めるものやお笑いが蔓延し、涙を誘うドラマなどがきらわれ、少なくなっている。
一方、このような現状が生じているにもかかわらず、国家を挙げてIT化が推奨され、幼児教育からコンピュータが導入され、小学生でも携帯電話を持っているように、IT関連ツールは日用必需品となり、「孤立」、「エゴ」が蔓延し、デジタル型からアナログ型に移ろうとしている。読書の方はと言えば既に漫画時代といったアナログ型が定着している。食生活の面では「孤食」が定着しようとしている。
 こうした現実は、とくに次世代をになう子どもたちの体力の低下、書字能力の低下、計算能力の低下、記憶能力の低下、対人技術の発達の遅れなどが起こり、日本および地球の発展・未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子どもは成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てるべきである。

「食育」の重要性
 そこで、上記した諸問題を真摯に受け止め、改善の方向性を探ると、最も基本的で緊急を要する課題は乳幼児期からの「家族」としての食生活のあり方である。すなわち、育自・共育の精神を持って正しい食生活をすれば健全な家庭生活を送ることができる。しかし、食生活のあり方を一歩間違えれば生活習慣病や摂食障害などの精神障害をまねき、さらにこれが遺伝的体質として次世代へも引き継がれかねない。
 こうした中、食と栄養の専門家である服部幸應氏は「食育」と言う言葉を流行させ、次の日本を作っていくためには「食育」がいかに大切であるかについての教育活動を展開し、2007年食育基本法の制定に貢献した。そこには「食育」に対する強い信念が伺えられる。
 一般に、現代人は、食に対しては好きなものを好きなときに、あるいは今あるもの(または残り)を取り寄せて食べているのが実情であり、食あるいは栄養に対する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。私たちは、食を通してからだとこころの成長が図られることを忘れてはならない。団欒のある楽しい食生活やおいしい食べ物を摂取した時の自然と笑みがこぼれる幸福感を忘れてはならない。すなわち、「食育」は「職育」であり、幼児期であれば正しく成長するために、子どもであれば、知識を学習するために、大人であれば、それぞれの任務・責任を遂行するために、つまり生涯についての重要な営みである。

生活にリズムをつける
 例えば、エネルギーの貯蔵組織である脂肪細胞が増殖する時期にはリズムがあり、生涯において3回存在する。最初は、妊娠末期3ヶ月の胎児期で、この時期に母胎内から外界に出るために必要なエネルギーを蓄えることが出来るように脂肪細胞数が増える。2回目は生後1年以内の乳児期で、この時期に誕生と同時に外界において生存、成長していくために必要な脂肪組織を作り上げる。そして第3回目は思春期である。これらの時期に生活のリズムが乱れ、過食すれば当然脂肪細胞の数は増え、肥満となり、生体のリズムは乱れる。一度増殖した脂肪細胞は生涯減少しない。
 私たちの住む地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経系のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっている。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切である。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、さらに生体恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)が崩れ、病気となる。

いまこそ「食生活」の見直し、教育・学習が必要であり、この期を失うと未来への損失は計り知れないものとなる
 生命維持において最も基本的で根本的なものが「食」であり、正しい食生活を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。
 まさに、「知識の消化吸収は人生最大の栄養素となり、多くの知恵を生み出す」ように、健全な食生活から得られるものは計り知れない。すなわち、「食生活と栄養」に対する知識を得ることによってからだとこころを大切にし、団欒などから知恵を引き継ぎ (親からの伝承など)、生きる術として大切な善悪の判断、感謝する素直なこころを持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」なこころで「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力とこころを持つようになる。これがさらに、次の世代に引継がれていく。(近藤雅雄:平成27年8月1日掲載)

社会の変貌と大学における科学教育 

 さて、戦前までの日本は三世代や四世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていた。しかし、戦後の都市化および核家族化政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立し、一極集中化した結果、代々綿々と受け継がれてきた様々な伝承・文化が時代とともに薄れ、「集団」から「個人」の社会へと変化した。また、住居は植物という有機体を主とした木造建造物から無機物である鉄筋コンクリートに変わり、日本古来の生活環境が大きく変化した。さらに、食生活の面では日本型食生活から、欧米など世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代へと変化した。
 このように「家族」、「食」と「住」という生活の根源的な部分で大きく変貌し、一見、豊かさを増したように思われるが、逆に、日本は世界で有数の自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な機能的合胞体に対して無関心で脆弱な国民が増加している。また、格差が増し、超少子・高齢社会という少数単位での生活環境がからだと心をさらに脆弱化している。こうした現実は、とくに次世代をになう子供たちの「対人技術の発達の遅れ」など各種脳力の低下が起こり、日本の未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子供は成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てなければならない。
 一方で、相変わらず先端産業技術開発の進展は著しく、専門とする分子生物学方面を見ても、2003年に既にヒトの全遺伝子情報が解読され、それ以降、ヒトゲノムの塩基配列において、どの多型や変異が病気の発症や体質を決定するかを解明する「ゲノム機能学」や「テーラーメイド医療」、生命をシステムと捉え、それをコンピュータで解析、シミュレーションするという「システムプログラム生物学」、さらにES細胞、iPS細胞の多機能性維持の分子機序の解明や分化誘導の細胞内シグナル伝達系の解析による「再生医学」研究が地球規模で取組まれている。しかし、これら研究技術は悪用すれば瞬時に生命圏、地球の破壊に繋がる。
 大学は教育における最終的な人格形成機関である。教養を基礎に専門性を育てる機関である。しかし、全入時代となった今日、大学の質と量に対するさまざまな改革、グローバル化が行われているが、教養の空洞化が年々大きく拡大し始めているように感じてならない。人間社会と科学技術の発展との間に大きなジェットラグが生じているのが現状である。
 大学で働く教育・研究者は、中途半端な人材育成だけは避けていただきたい。技術はあくまでもツールであって、ことの本質を見誤ることなく、善用することが大切であり、そのためには自然科学と人文科学の融合が必須であり、基本的教養の再構築、温故知新(文化の保存、伝達、創造)、知的コミュニティの強化、文化の多様性の確保が大切である。基本的教養を身につけることは、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕するといった素直な心、さらに、前向きに生活技術の工夫を行う知恵と将来を夢見る心を持つことであり、「自由」な心で「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力と心を持つ大学生の育成を心がけてほしい。(近藤雅雄:平成27年8月1日掲載)

健常人と難病患者

 現代人は遺伝子の異常を10個以上持って生まれてくると言われます。しかし、殆どの人が何の自覚症状もなく健康です。ところが、たった一つの遺伝子の異常が病気となって生まれてくる人もいます。これを先天異常といいますが、健常者と同じくこの世に誕生した大切な「いのち」です。人間社会において、いのちを大切にするこころは人としての基礎です。
 健康の反対が病気ですが、これまで健康であった人が、何らかの原因によって病気になった時に、初めて健康のありがたさを思い、誰もが二度と病気に罹りたくないと思うものです。そしてそれが実現できます。ところが、病気を持って生まれてきた人はどうでしょうか。患者さんは健康への願望、生きることへの願望、仕事への願望、いのちへの思いが、健康な人以上に強く、また、今日の人間社会に欠けている他者を理解し、思いやるこころ、家族・友人を大切にするこころ、いのちの尊さと感謝の気持ちを強く持ち合わせております。私たち健常者に足りないものを多く持ち合わせております。私たちは難病患者から実に多くのことを学びます。今の人間社会には、いのちを大切にするこころと、相手のこころの痛みを自分の痛みと感じる「思いやり」のこころ、そして信頼できる温かい人間関係の輪を作るこころといった人間としての根幹にかかわるこころが欠けつつあるのではないでしょうか。
 私は、これまでに多くの時間を費やして、先天異常の一つである「ポルフィリン症」の発症機序や診断・治療法について研究し、患者さんの立場に立った研究・教育活動をしてきました。この「ポルフィリン症」は、たった一つの遺伝子の異常が先天異常として出生後に発病する先天代謝異常症で、多彩な症状を診る難治性の稀疾患です。本症は、初期症状として消化器症状(腹痛、嘔吐、便秘等)や神経症状(運動麻痺や四肢知覚障害等)が前面に出る急性型と、皮膚の光線過敏症を主徴とする皮膚型がありますが、どちらも誤診や事故が後を絶ちません。
 しかし、今日においても、いまだに医師及び行政はこの病気に対する正しい知識を得ていないのが現状です。その結果、誤診による禁忌薬の投与などの誤った治療と十分な心身のケアーが得られず、毎年何人かの若い「いのち」を失います。患者さんにとっては根治療法が開発されない限りいつも時間がありません。
 「ポルフィリン症」は一度発症すると長期間の入院や高価な治療薬の投与が必要になります。そして何度も再発を繰り返し、その日を境に、太陽に当たれないとか、仕事がなくなる、一般的な薬が服用できなくなるなど、日常生活・社会生活に大きな障害を持ち、健常者には想像を絶する深刻なこころとからだの病を合併し、患者さん並びにそのご家族の辛苦は計り知れないものがあります。患者さんの中には17年間、入院生活を余儀なくされている方もおります。また、診断されずに突然に急逝したという話も聞きます。
 日本は経済大国、医療の先進国として、日本に住むポルフィリン症などの難病の患者さんが安心して生活し、先進医療が受けられるような、さらなる医療と福祉の充実が必要です。(近藤雅雄:健常人と難病患者、2015年7月12日掲載)

サプリメントとは、利用にあたっての注意事項

サプリメントの名称は米国で1994年にできた栄養補助食品健康教育法(Dietary Supplement Health and Education Act; DSHEA)からきています。これは単にサプリメント法とも呼ばれていますが、この英語名「dietary supplement」を直訳したものに近いものです。それによると、ビタミン、ミネラル、ハーブ類、アミノ酸などの成分を1種類以上含む栄養補給のための製品で、錠剤、カプセル、粉末、ソフトゲル、液状など、通常の食品以外の形状をとるものはすべてサプリメントと呼ばれ、日本では「栄養補助食品」と訳されることが多い。

米国の健康補助食品
1.ビタミン類
2.ミネラル類
3.ハーブ類(漢方も含む)
4.植物性のもの(生薬類なども含む)
4.アミノ酸類
5.食事として摂取されているもの
6.濃縮されたもの
7.代謝産物
7.構成成分
8.抽出されたもの

 これは食事療法、運動療法、薬物療法にとってかわる物ではなく、健康リズムを回復または維持していくための補助的に利用すべき食品であり、摂取するタイミングや取りすぎには注意が必要です。
サプリメント(または健康食品)が国内で利用されている背景・目的として、
①現在の日本においては食の西洋化によって油脂や糖質などの高エネルギー食品が増える一方で野菜、雑穀類、穀物類など、また、食物繊維のような低エネルギー食品成分やミネラル、ビタミンといった微量栄養素を多く含む食品の摂取量の減少による補助として
②農薬や産業廃棄物による食品の質の低下による補助として
③土壌の劣化に伴う植物含有栄養素の減少や輸送手段の発達による品質の低下(未熟な野菜、果物の収穫による栄養素の不足)による 補助として
④養殖魚や養鶏で使われている抗生物質など人為的操作による品質の低下を補助するため
⑤健康志向
⑥合理化思想の浸透
⑦核家族の進展による食生活の貧困
⑧健康食品企業の加熱宣伝の効果
⑨人から勧められたり、人が使用しているとまねたりする
⑩スーパー、コンビニ、飲食店、ファーストフード店などの乱立
⑪疲労回復、精力増強などに即効性がある
⑫病気の予防や体質改善(肥満を含む)のため

などが挙げられます。こられの結果、家できちんと食事を摂らないで、手軽に健康を支える食品として、「いわゆる健康食品」といわれるものが氾濫していると思われます。健康食品と類似の名称として健康補助食品、健康栄養食品、栄養補助食品、ダイエタリ・サプリメント、健康飲料などがあり混乱していますが、健康食品に対する明確な定義はありません。

サプリメント利用にあたっての注意事項!

1.サプレメント利用にあたっては十分な情報を得て、ご自分の判断にて選択してください。
2.ここに記載したサプレメント(アカサタナ・・・順)が健康食品に含まれているとしても、その安全性・有効性が十分であるとは限りません。
3.これらの情報には動物実験結果のものもありますので、有効性については、ヒトを対象とした研究情報が重要です。また、人によって、体調によって、服用する医薬品によって、さらに食べ物によってその効果は異なりますので、健康食品を摂取する場合は十分に注意してください。
4.何らかの病気を持っている方は、健康食品を摂取する際には医師へ相談してください。摂取して、もし体調に異常を感じたときは、直ちに摂取を中止して医療機関を受診してください。
(近藤雅雄:サプリメントとは、2015年6月17日掲載)

人間として生きる力を育てる

 地球上には数千万種の生物(生命体)が生息しているといわれるが、遺伝子の構造と原理はすべて共通している。
 この遺伝子の本体であるDNAの構造 が発見されてから約50年経つ。その間の分子生物学の発展は驚異的で、生命のしくみが分子レベルで解明され、2003年4月には人の全遺伝子情報の解読、 2007年11月には人の皮膚細胞からさまざまな組織・臓器の細胞に生長する能力を秘めた「万能細胞」を作ることに成功している。
 しかし、自然科学者の一人として、研究者の飽くなき未知への探求を考えた場合、万能細胞や遺伝子技術はひとたび方向性を間違えなければ、生命系の混乱を惹き起こす。この ことは、地球環境の問題がそうであるように。最終的には人間に及ぶことを忘れてはならない。いま、人類が早急に定めなくてはならないことは、これら技術を 人類の叡智で健康・医療などを目的として、人間社会の持続可能な発展に貢献しなければならないというルール(生命・地球倫理)を作ることである。
 そのためには、基本的教養(人間としての品格)と健康(心身および社会的に健康であること)を身につけることが重要で、すべての人類が教養を持ち健康を意 識すれば、戦争や地球環境の悪化は起こらない筈である。私たちは人間として、地球の恵み、宇宙の恵みに感謝し、自然の営みを大切にする心を持って、次世代 を担う子どもを人間らしく、幸せになるように育てる責任がある。宇宙の中で、人間が住むたった一つのこの美しい地球を次世代に引継ぐべく様々な運動を展開 する必要がある。

 人間は約5000万年前にチンパンジー類の系統から分かれ、250万年前に音声言語を獲得し、現代人へと進化してきた。そして、人間だけが哺乳動物の中で大脳皮質の前頭連合野を大きく進化させ(チンパンジーの約6倍ある)、発達し、地球上の生物界を支配するようになった。
 最近の脳科学の発展によって、人間としての言語、思考、創造、意思、感情、理性、感性などの様々な機能、人格形成はこの前頭連合野にて行われ、その基本的な神経およびシナプスの回路は8歳頃(遅くとも12歳頃)までにほぼ完成されるという。
 この領域が障害すると、統合失調症、うつ病、強迫神経症、注意欠陥/多動障害などのこころの病気が生じる。また、生まれてから8歳くらいまで狼に育てられ たカルマや、幼児の頃から12歳頃まで精神異常の父親によって監禁されたジニーの、人間としての言葉の喪失、前頭連合野に障害を受け、人格が崩壊したファ ニアス・ゲージ、そしてノーベル医学生理学賞を受賞したアントニオ・E・モリスの「前頭葉ロボトミー」による性格(人格)の喪失などでも明らかなように、 人間としての生きる力を失う。

 日本では高度成長期の終焉を迎えた70年代後半から、核家族、少子高齢化、地域コミュニティーの崩壊、地域格差、教育の荒廃が生、その結果、孤立、エゴ、孤食、不登校、陰湿ないじめ、暴力などといった社会問題が起こり、育児放棄や身体的・心理 的・性的虐待などといった児童虐待へと連鎖している。この頃から、子どもや若者は感動すること、感動して涙を流すことが少なくなったように思える。
 涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間特有の生理現象である。涙を流すことによってこころが洗われるとよく言うが、それは脳 内の良い遺伝子が働き前頭連合野を成長させるからである。したがって、人間として生き、人間として育むためには幼児期における教育がいかに重要であるかがわかる。

 私の幼少の頃は父親あるいは母親に映画や演劇・歌舞伎を観によく連れて行かれたものである(しかし、両親と一緒に行った記憶はない)。そこには感動も含めて、人間として成長・発達していくための多くの要素を含んでいたように思われる。
 演劇は、演じる者、見る者が一体となって、人と人との間のコミュニケーションを基盤に、様々な知恵の伝承、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕す るといった素直な心を養う。個を取り巻く様々な事象(人、社会、自然)を知覚するための知性と感性が育まれ、そこから自主性、独創性、創造性、集中力、積 極性、幸福感、達成感などを感じ取り、将来へ向けた計画、展望、夢を見るようになる。そして、人間として生きる力(自助、共助の精神)を獲得し、相手を思 いやる気持ち、自然を守ることの大切さを知る。これらの前頭連合野の働きはやがて大人になって、「自由」な心で「正当性」、「責任」を持って、「平和(社 会)」に貢献し、様々な技術を善用できるこころと体力を持つようになる。

 人間の本質は遊びである。演劇も遊びである。遊びの基本は自発性であり。好奇心であり、脳の働きそのものである。人間として正しく生きる力を育むためには、幼児期に体系的な感性を育む遊びを中心とした総合的教育が大切である。
 子どもたちの未来のため、人類が平和と環境を堅持するためにも、演劇を通して幼児教育に様々な形で貢献されている児童・青少年演劇の活動に期待したい。(近藤雅雄:2008年3月25日、児童・青少年演劇ジャーナル「げき6」巻頭言掲載;編集・発行=児童・青少年演劇ジャーナル編集委員会、発売=晩成書房)