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こころとからだの健康(8)肥満対策

 肥満とは単に体重が多いということではなく、脂肪量(中性脂肪)が過剰に蓄積した状態をいい、脂肪が増量している組織および場所(分布)によって皮下脂肪型(下半身型、洋梨型)肥満と内臓脂肪型(上半身型、りんご型)肥満に分類されます。生活習慣病との関わりがあるのは内臓脂肪型肥満です。
 肥満発症の原因は①食べ過ぎ、②誤った食事パターン、③運動不足、④遺伝、⑤熱産生機能障害などが挙げられますが、生活習慣による影響が多いことが分かっています。

1.肥満のメカニズム
 肥満のメカニズムの研究は1994~1995年に肥満の遺伝子およびその受容体遺伝子などが相次いで発見され、漸く肥満のメカニズムの概要がわかってきました。ヒトの体重は身長に対して設定されたように遺伝子によって食欲や消費エネルギーが調節されています。その調節には主に①レプチン(白色脂肪細胞から内分泌される蛋白質で摂食中枢を抑制する。すなわち、もう食べなくても良いという信号を脳に伝える。レプチンとはギリシャ語で“やせ”の意味です)、②レプチン受容体(視床下部の摂食中枢に存在する)、③β3アドレナリン受容体(エネルギー倹約遺伝子)、④脱共役蛋白(UCPファミリー;ミトコンドリア内膜に局在する蛋白で、ATP生産を伴わずに熱産生を行う)などが関与し、これらの遺伝子の異常と様々な環境要因が肥満を発症させる原因となります(肥満に関連した遺伝子は約70種類存在するという)。
 近年、急速に肥満者が増加(とくに小児の肥満が多い)し、社会問題となっていますが、その原因は過食や運動不足などが考えられます。

2.小児肥満の対策
 小児肥満の問題点として、①成人肥満への移行、②生活習慣病の発現、③いじめの対象となるなどがありますが、これらの対策として、こころの教育が最も大切です。小児肥満は、①家族、学校での教育(共育)、育児(育自)、②食生活改善、③糖質、脂質の摂取量を減らす、④積極的に運動を奨励する、⑤ダイエットの自重などによって予防することができます。

3.食事と健康
 こころとからだの健康を堅持していくために最も重要なのが食です、日頃から食に対する考え、興味を持ち、栄養についての正しい知識を身に付けたいものです。
 栄養は生命を維持するために必須な行為であり、その目的は生体機能の調節、生体組織の修復・再生、体温生産およびエネルギーの獲得などです。栄養素の摂取が十分であるかないかは、年齢に適した発育(身長・体重)、日常作業に十分見合った体力(作業能力)、病気に対しての抵抗力(免疫力)、などによって栄養状態が判定されます。
 これらの栄養状態が適正であるためには栄養素の過不足がないようにバランスよく食事摂取することが重要です。特に、食事は日常の生活習慣に欠かせない現象であり、生活習慣と深くかかわる病気の予防や改善のためには、毎日の食生活、食事に気を配ることが重要です。

4.肥満を誘発する原因が氾濫
 近年、24時間営業のコンビニエンスストアで外国の食材、加工食品、健康食品が氾濫し、気安く購入できることから需要が急増しています。しかし、これらの食品には一時のファッション的な、科学的裏づけのないものが多く出回っています。また、外食産業が発展し、今や欧米と同じように日本人の食生活並びに健康管理は個人に委ねる時代となりましたが、その結果、日本人の肥満人口が増加し、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病が蔓延することとなりました。

5.太らないための10か条
 肥満は①生活習慣病に直結する、②免疫力が低下する、③動きが鈍くなる、④息切れがするようになる、⑤やたらに汗をかく、⑥寿命が短くなる等、デメリットが多く、メリットがあまりありません。私も、青年期に56㎏であった体重が、中年期には過食と運動不足によって70kgと過体重となり、様々な生活習慣病を発症すると共に、先に挙げたデメリットが出てきました。そこで、健康について意識するようになり、これまでの生活習慣、特に食に対する意識を変え、日本人本来の日本型食生活に変えてから体重が減少し、現在は青年期の56㎏に戻すことに成功すると同時に生活習慣病もなくなりました。以下に、私の経験に基づき作成した太らないための条件を挙げます。

太らないための10か条
1)自分の体質を知る
2)1日3食、時間をかけて楽しくいただく
3)食塩、脂肪類は控えめに
4)刺激物、甘物、アルコール類などの嗜好品は控えめに
5)毎日野菜、海産物を多く食べる
6)寝る2~3時間前までに食事を終える
7)1日30分以上の運動(有酸素運動、徒歩1万歩)を行う
8)からだをこまめに動かす
9)体重計に乗る習慣をつける
10)入浴中は腹式呼吸を行い、ストレス解消を図る

6.健康度に対する健康指数
 標準体重は身長(m)×身長(m)×22によって、また、肥満度(BMI:体格指数)は体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)によって求められます。評価は、BMI 18.5~25が正常で、18.5以下がやせ、25以上が肥満です。やせすぎの場合も病気の罹患率が高く、BMI=22が最も病気の罹患率が低いと言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(7)摂食障害

摂食障害 拒食や過食などの摂食障害は年々増加の傾向にあります。その病因は成熟恐怖や家族問題などの心理的要因(心因説)、摂食調節因子異常などの生物学的要因(身体因説)、ダイエット流行などの文化・社会的要因(文化・社会因説)などが考えられ、また、これらの要因が相互に関連しあって発症する多元的モデルが広く受け入れられています。
 一方、拒食と過食は相反するもののように捉えがちですが、拒食症から過食症に移行するケースが約60~70%出現し、「極端なやせ願望」あるいは「肥満恐怖」などが共通し、病気のステージが異なるだけの同一疾患と考えられています。

1.拒食症(神経性食欲不振症、神経性無食欲症)
 とくに若年層(思春期)の女性に多く、また、先進国に多いことから文化的要因も含まれていることが推測されます。
 この病気は体重増加への強い恐怖心を持つものが多く、その発症には第2次性徴期における特有のこころとからだの成熟のアンバランスからくる不安定な心理状態が関与しているといわれています。症状としては、女性の場合は拒食のために体重減少(標準体重の-20%以上)、無月経、性ホルモン低下、糖質コルチコイド(ステロイドホルモン)上昇などを引き起こし、「うつ」に移行することもあります。また、時には隠れ食いをしては嘔吐を繰返すこともあります。重症例では死亡することもあります。

2.過食症(神経性大食症、神経性過食症)
 過食症の場合は1週間に2回以上ヤケ食いやドカ食い(俗に週末過食症候群などと言われる)が見られ、結果的には肥満(単純性肥満)となりますが、体重増加を止めるため食べたあと吐くこともあります。原因は不明ですが、認知行動療法(体重と自己評価)や抗うつ剤が効く場合もあるということです。
 拒食症や過食症はこころの病が中心であることは間違いなく、その治療には、体重を調節するだけではなく、摂食障害についてよく理解し、ストレスとなる原因を早期に発見、その対処を考えることがなによりも大切です。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

こころとからだの健康(6)ストレスと心身の障害

ストレス 現代社会はストレスに満ち溢れ、社会生活上、学校、会社、家庭内などでよく遭遇する不安、悲しみ、失望、恐怖、また、突発的な事件に巻き込まれたり、大きな災害に遭遇したりなど、後天的にこころが傷害されることが多く見られます。これは日本が抱える課題の一つである自殺者の増加と決して無縁ではありません。
 こころが健康であるということは、感情(気持ちや気分)と精神(理性)が健全で、社会と調和した生活を営んでいる状態と言えます。このような状態から外れるとこころの健康に異変が生じ、やがて「こころの病」へと進展します。
 ストレスが原因で起こる「こころの病」の代表が「心身症」「神経症」「うつ病」ですが、これらは関連している部分も多く、厳密に区別できないことがあります。この中で、「うつ病」はこころの風邪と言って誰でもなる病気ですが、年々患者数が増加し、放置すると自殺へと進展するので、予防医学上早期対策が望まれています。
 一方、からだの疲労がこころの疲労に移行する「累積疲労」が知られています。また、「慢性疲労症候群」も知られていますがこれらこころとからだの疲労には必ずその原因が存在します。まずは、睡眠時間を十分に確保し、成長ホルモンの分泌を高め、疲れを解消してから、疲労の根本となる原因について相談し、早めに除去または対策を講じることが必要です。

1.心身症
 心身症はどの年齢層でも発症しますが、特に働き盛りの中高年齢者に多く見られ、こころの過度の負担(心理的、社会的ストレスが過剰に加えられた状態)が、内臓諸臓器に器質的ないし機能的障害となって現れる病気を言います。例えば、胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、神経性狭心症、自律神経失調症、円形脱毛症、睡眠障害、片頭痛、高血圧症、糖尿病、気管支喘息、更年期障害、性機能不全症、メニエール症候群、単純性肥満、慢性関節リュウマチなど多くの病気が関連し、ヒトによって病状は様々です。心身症はストレスとうまく付き合うように工夫し、早めに病気の原因を取り除くことによって、様々な病気の発症を未然に防ぎたいものです。

2.神経症
 神経症は性、年齢に関係なく発症しますが、特に10歳代後半から30歳代にかけて起こりやすい病気です。神経症の発症には心理的・社会的ストレスが大きく関与し、精神・神経症状として現れるもので、一般にノイローゼと言われています。心身症と異なり、内臓諸臓器には異常が認められません。また、躁うつ病や統合失調症のような内因性の精神病と異なって幻覚や妄想は見られません。
 神経症には①絶えず漠然とした不安感を持つ不安神経症(パニック障害)、②ささいな病状でも重病と思い込む器官神経症(心気症)、③自分の意思に反してまるで強迫観念に取り付かれたようにある行為や考えから抜け出せない強迫神経症、④対人恐怖や赤面恐怖、異性恐怖などの恐怖症、⑤健忘状態になったり、人柄が急に変わったり、無表情になったりする精神的症状および座れなくなるなどの運動麻痺や物が見えない、耳が聞こえないなどの知覚麻痺が起こり、これがヒステリーとなって現れることがあります。これらの根底には不安が共通して見られますので、不安となる原因を除去または考え方を改めることが早期治療につながります。

3.うつ病
 うつ病は近年増加傾向にあり精神心理的、社会的ストレスが発症や増悪に深く関与する病気で、脳の心身症とも言われています。発症年齢は時代と共に低年齢化し、20歳から50歳代で発症し、女性の方が男性に比べ約3倍高く、我が国の自殺増加との関係からもその対策が急がれます。女性では産褥期や更年期に比較的発症頻度が高いと言われています。
 うつ病の発症機序は不明ですが、こころとからだを活性化するセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経化学伝達物質の減少によって引き起こされると考えられています。したがって、薬物療法としてSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)を投与し、シナプス内セロトニン濃度を増やすための療法が中心となります。診断基準としては、米国精神医学会が作った診断マニュアルやWHO(世界保健機構)が作ったものがあります。
 表に示した様に、うつ病の症状は神経症や心身症とうつ病と神経症似た点も多く見られますが、生きる気力がなくなり、こじらすと自殺につながることが特徴です。うつ病患者の自殺率は高く、患者の14~37%が自殺企図し、15~25%が自殺する。合併症として不安障害、アルコール・その他の薬物乱用、社会恐怖、人格障害、摂食障害などが知られています。うつ病の場合は薬(抗うつ剤)や休養をとり、安心(癒し)を与え、治る病気であることを認識することが重要であり、励ましや叱責は本人の気持ちを追いつめることになり逆効果となります。予後は良好ですが、患者の約20~30%は慢性化すると言われています。
(近藤雅雄:平成27年8月30日掲載)

ポルフィリン・ヘム代謝異常

 ポルフィリン症はヘム合成系酵素の遺伝的あるいは後天的障害によってポルフィリン代謝関連産物の過剰産生、組織内蓄積、排泄増加を起こす一連の疾患群である
 本症は1923年、AE.Garrodにより代表的な先天性代謝異常疾患の一つとして提唱されて以来、現在までに8病型が知られている。ポルフィリン代謝異常が肝細胞内で起これば肝性ポルフィリン症、骨髄赤芽球内で起これば骨髄(赤芽球)性ポルフィリン症と分類される。また、臨床的には急性の神経症状を主とする急性ポルフィリン症と皮膚の光線過敏症を主とする皮膚型ポルフィリン症に分類される。
 ヘムは細胞内のミトコンドリアと可溶画分に局在する8個の酵素の共同作業によって合成され、ヘモグロビン、チトクロ-ムーP450などのヘム蛋白の補欠分子族として、細胞呼吸や解毒機構などに関与する。ヘム合成の最初の酵素δ-アミノレブリン酸(ALA) 合成酵素(ALAS)には赤血球系細胞でのみ発現している赤血球型酵素(ALAS-E)と、肝臓等すべての臓器で発現している非特異型酵素(ALAS-N)の二つのアイソザイムが存在し、その調節には組織特異性がある。詳細は次のpdf(別冊日本臨牀 新領域シリーズNo.20、先天性代謝異常症候群(第2班)ポルフィリンーヘム代謝異常:概論、2012年12月20日発行)参照(近藤雅雄:平成27年8月27日掲載)

ポルフィリン・ヘム代謝異常

こころとからだの健康(5)右脳と左脳を知る

1.男と女の脳の違い
 男性の脳重量が1.45㎏前後に対して女性は1.25~1.35㎏ですが、この理由はよくわかっていません。脳の機能からすると男性は主に右脳を使っているのに対して、女性は右脳と左脳の両方を使っていると言われます。このことは、人間の誕生以来、男性は家族を養うべく食糧を獲得しなければならないため、筋肉運動、推理能力、空間認識などを機能とする右脳が発達し、女性は子孫を残し、愛情を持って育てるべく持久力、語学能力、言語能力、計算能力、書字能力など育児を司る左脳と、本能的に子どもを外敵(環境)から守る右脳をうまく使って発達してきたと思われます。この違いが脳の進化・発達に影響を与え、性差による右脳と左脳の違いとなって現われたものと思われます。すなわち、胎児期に男性ホルモン量が多いと右半球の成長が早くなり、左半球の成長が遅くなって、男性は右脳が発達してきたと考えられます。

2.大脳皮質前頭連合野働き
 脳は大脳(皮質、辺縁系、基底核)、間脳(視床、視床下部)、脳幹(中脳、橋、延髄)、小脳からなりますが、人では他の哺乳動物と異なって大脳皮質が異常に大きく発達し、知的な活動をコントロールできる機能が発達してきました。この大脳皮質については、①全ての人が同じ数の神経細胞(約140億個)を持つ。②心身(こころとからだの働き)の司令塔である。③感覚、運動の統合、意志、創造、思考、言語、感情の中心となる。④成長に従って発達し、ゆっくり退化する。⑤1日、週、月、四季、消化、ホルモンの各リズムが存在する。⑥心身の疲労を回復し、記憶に役立つ睡眠のリズムが存在する。⑦男と女との違い等、脳の中で最も重要ですが、その中でも人間として最も大切なのが、前頭連合野です。
 この前頭連合野は思考、言語、理解、理性など人間としてのこころの働き(精神活動)の中心となっていますので、人としての「こころの中枢」と言えます。哺乳動物では、前頭連合野の重さはヒトが約400g(脳重量の約30%)に対してチンパンジーは約70g(17%)です。さらにサル、イヌ、ネコでは、各々脳重量の12%、6%、2~3%しかありません。笑いは進化の証と言われますが、地球上の生物の中で、笑う動物は前頭連合野の多い人とチンパンジーだけです。さらにチンパンジーよりも大きく前頭連合野が発達した人は言語の機能を獲得し、自分自身に関する情報を意識的に保持しつつ組み合わせて(自己意識)、自分自身をコントロール(自己制御)することが可能ですので、「人間力の中枢」とも言えます。

3.右脳と左脳の違い
 人の言語機能の約90%は左半球にあり、大脳半球左右差の典型例と言えます。言語機能から見ると、左半球は言語半球あるいは優位半球と言われています。この言語に関しては左の前頭葉にブローカの「運動性言語中枢」があり、側頭葉にウェルニッケの「感覚性言語中枢」があります。両者はお互いに連絡し合って生命の司令塔として機能しています。例えば、運動性の言語中枢に障害をあると会話が出来なくなり(運動性の失語症)、感覚性の言語中枢に障害があると相手の話す言葉や書かれた文字の意味がわからなくなる(感覚性の失語症)ようになります。
 左脳は言語のほかに図に示したように計算、書字など分析的、抽象的、論理的な機能が多いのに対して、右脳は空間的知覚や情操的な音楽などについての機能を持ち、言葉で表現できない直感的な理解に関与すると言われています。。左脳と右脳
 したがって、左脳は生後に獲得される言語、計算、書字、記憶などを司り、右半身の感覚と運動を支配します。一方、右脳は芸術脳と言って、音楽や絵画、空間認識、非言語的な概念を司り、左半身の感覚と運動を支配します。この左脳と右脳は約2~3億5000万の神経線維を含む脳梁で連絡しています。
 古来より、人間の知恵として、「しわの一番多い手の掌を左右合わせることによって幸せになる」とよく言い伝えられてきましたが、まさに人間はうれしい時、感謝の意を表する時に手を合わせたり、手をたたいたりします。この現象は、脳が活性化し、喜んでいることを反映しています。つまり、左脳からの情報が右脳に移動し、またはその逆が起こり、左右の大脳皮質が猛烈に活動していることを示しています。
 したがって、左脳に入ってきた様々な情報を右脳に連絡するためには左手と右手を合わせることで両方の脳が発達することが考えられますので、毎日欠かさず朝の起床時にいのちに対する感謝を込めて、寝る前に一日の生活・行動への感謝を込めて、そして食事の前後に生きる力を頂くことへの感謝を込めて手を合わせる習慣を身に付けてはいかがでしょうか。
(近藤雅雄:平成27年8月26日掲載)

こころとからだの健康(4)男女の寿命差

 介護の必要がなく健康に生活できる期間を「健康寿命」と言いますが、平成25年(2013年)の日本人の健康寿命は男性71.19歳(同年の平均寿命は80.21歳)、女性74.21歳(同86.61歳)でした。平均寿命からすると女性の方が男性よりも約6年長く、健康寿命は女性の方が約3年長い。しかし、介護を要する期間は男性よりも女性の方が約3年長いという結果でした。
 健康寿命の延伸とQOL(生活の質)の向上を図るためには、健康増進の3原則である栄養、運動、休養を生活習慣にうまく取り入れることが大切です。しかし、仕事を抱えた男性はなかなか困難で、惰性になりがちですが、健康に対する意識改革が必要です。一方、女性は介護を必要とする期間が長いことから、老後自立できるような工夫を早期に講じることです。

1.男女の寿命の違い
 男女の違いはY染色体の有無で決まります。性を決定する遺伝子であるY染色体上のSRY(Sex-determining region on the Y chromosome)は男性ホルモンであるテストステロンを生産し、男性生殖器への分化や男性の性格形成を促進すると言われています。例えば、染色体(XX)は女性でありながら性格が男性の場合は男性ホルモンが胎児期の脳に入った場合に起こり、反対に染色体(XY)は男性なのに男性ホルモンが脳に入る量が少ない場合は女性の性格になるといった、いわゆる性同一性障害となることが知られています。
 さて、世界中の国において男性の方が短命です。その理由は、①男性は免疫の中枢である胸腺(免疫器官)の萎縮が早い、②筋肉量が多いため基礎代謝量が高い、③染色体の違い(Y染色体は傷つくと回復しない)等が挙げられます。男性は、一般的に生活のリズムが不規則、仕事によるストレス、不適切な食生活(偏食が多い)などによる生体リズムの乱れや筋肉をたくさん持つことから、女性に比して酸素の摂取量が多く、それだけ多くの活性酸素を発生する。これが酸化ストレスとなって免疫力の低下、病気や孤独に弱い、デリケートである等の理由によって短命となると言えます。したがって、男性は日常的にビタミンA、C、Eやポリフェノールといった抗酸化・免疫増強物質を摂取し、ストレスとうまく付き合う生活習慣を身に付ける等、酸化ストレスからの防御が必要です。

2.夫婦の寿命の差
 長年、夫婦が幸せに暮らし、ある日どちらかが先に亡くなった場合を想定します。もし、夫を亡くした妻は1年位落ち込みますが、それ以降は、のびのびと暮す場合が多く見られます。逆に、妻に先立たれると5年寿命が短くなり、離別するとさらに10年寿命が短くなるそうです。また、50歳からの平均余命は、妻のいる男性では約30年なのが、妻のいない男性は約21年と短い。さらに、60歳以上の自殺による死亡者数は離婚した男性が妻のいる男性に比べ46倍も多いと言われています。
 結婚は夫婦それぞれのこころとからだの健康に大きく影響し、特に、男性は配偶者・家族の存在の恩恵を強く受けます。男女ともに健康寿命と平均寿命をまっとうし、介護の必要のない生活を送るのが理想的な寿命と言えます。
 夫婦が幸せに暮らしている姿はだれが見ても微笑ましいものです。夫は妻を、妻は夫を、お互いに理解し、末永く幸せに暮らす方法を若い時から考えていきたいものです。
(近藤雅雄:平成27年8月26日掲載)

こころとからだの健康(3)12か条

 生活習慣病、感染症、癌等に罹患しない丈夫なからだ作り、ストレスを溜めないこころの健康作りが各個人、社会に求められています。個人ならびに集団社会が惰性的であったり、依存的である場合、あるいは個人が身体を動かさなかったり、偏食、喫煙、薬に頼るようなことになると、生きがいを持たない、暗い性格(キレ易い、悲観し易いなど感情の変化が著しい)を持ったヒトが多くなり、社会全体が非活動的・非生産的になるばかりでなく、医療費の高騰を招きます。個人においてはストレスを溜め易く、不定秋訴→籠もり易い→病気(こころとからだの病気)によって健康寿命をはやめる結果となります。
 こころとからだの健康には日頃から報恩、感謝の気持ちを抱くこと、いのちの尊さを理解すること、愛情を持つこと、ストレスを貯めないで前向きであること、目標(夢、志)を持つこと、自然のリズムを大切にすることなどが重要です。これらはすべて酸化ストレスを少なくし、免疫能を増強させ、こころとからだを軽くし、毎日がウキウキと生きがいの満ちた生活となり、人生を楽しく、また素晴らしいものにしてくれます。
 そこで、私の考える健康増進の処方箋として「こころとからだの健康」12か条を以下に挙げました。

1.栄養(バランスの取れた食生活:団欒、育自、共育、神経・内分泌・免疫機能の維持)
 厚生労働省から提出されている食事摂取基準には年齢に応じた栄養素の摂取が記載されています。第一次・第二次性徴期、青年期、中高年齢期には栄養のバランスを考えた食事摂取が重要であることは言うまでもありませんが、特に中高年齢期になると基礎代謝が低下しますので、カロリーの過剰摂取は肥満につながります。肥満はメタボリック症候群と直結しますので、高血圧症、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病のリスクが高まります。また、過剰な食事制限(ダイエット)は生体のリズムの乱れにつながり、若い女性では月経困難症、貧血、感染症など多様な疾病の原因となります。したがって、バランスのとれた食生活が大切です。さらに、食事摂取時には団欒が大切です。食事を通して家族、友人などの人間関係を形成するこの上ない貴重な時間となります。家族であれば、育児(自)、教(共)育の時間となり、食事時間のリズムを遵守することによって、神経・内分泌・免疫の各機能が適切に働くだけでなく、食及び他者への感謝の気持ちを持ち、ストレス解消に役立ちます。

2.運動(身体を動かす:神経、循環、免疫機能の増強)
 人は動物です。動物は動く物と書きます。筋肉は第2の心臓とも言うように、適度な筋肉をつけることが大切です。とにかく身体を動かすこと。運動は定期的に3メッツ以上の強度の身体運動を毎日1時間は行いたいものです。運動によって、脳や筋肉が喜び(心身一如)、循環機能を高めるだけでなく、こころもすっきり、免疫力も高まり、まさにこころとからだのアンチエイジングに繋がります。糖尿病や心臓疾患などの基礎的疾患を抱えている場合は医師の指導に従ってください。

3.休養(疲れる前に休む:脳と全身筋肉の機能保持)
 思春期以降、1日約90分の時間のリズムがあります。90分前後仕事をしたら、10分前後の休息をとることが大切です。すなわち、疲れる前に休むことが大切で、疲れ果ててしまってからの休養は回復力が悪く、健康を取り戻すのに多くの時間がかかります。
 睡眠においても約90分のリズムがあります。就寝してから深い睡眠のノンレム睡眠が現れ、約90分後に浅い睡眠のレム睡眠が出現します。レム睡眠というのはREM(rapid eye movement)と言い、寝ていながら筋肉は弛緩(脱力症状)していますが、眼球が動いている状態で、この時に夢をみます。また、歯ぎしりをしていたり、寝返りを打っていたり、寝言を言っていたりする時の睡眠で、逆説睡眠といって体の睡眠を指します。一方、ノンレム睡眠は脳の睡眠(徐波睡眠)と言って、筋電図は動いていますが、眼電図はプラトーとなっています。この時に成長ホルモンなどが分泌され、生体がリセットされます。成長期の子どもは寝る子は育つと申しますが、まさに成長ホルモンの分泌が高まります。
 一日のスタートとして、目覚めは重要です。朝起きるときにはレム睡眠時の浅い睡眠時に目覚まし時計などを設定して起きると快適な朝を迎えることができます。逆に、深い睡眠のノンレム睡眠時に起きたりすると、一日中頭が働かないなど、不愉快なことが多々起こります。さらに、この2つの睡眠は記憶力にも関与していると言われていますので、良い睡眠を心がけるようにしたいものです。このように、良い睡眠を取ることは脳と全身筋肉の機能が改善し、こころとからだがスッキリします。

4.体質を知る(遺伝子・環境因子相互干渉作用)
 米国などの他の先進国に比べて日本は島国として、また長い間鎖国を通して比較的単一民族にて長年種族を保存してきました。すなわち、日本国民は比較的純粋培養され、遺伝子による影響はその血筋(家族・親戚)に左右されることが推測されます。
 自分の家族親戚(血筋)の中に癌や高血圧症、糖尿病、脂質異常症、肥満などがあれば、その体質を受け継いでいると考え、「生活習慣を考える」または「見直す」必要があります。もしも、大腸癌が家族にみられれば、大腸癌の体質を受け継いでいると考え、食物繊維や抗酸化食品の積極的な摂取やストレスに対する対処によって病気を予防できます。また肺癌の血筋であれば喫煙を止め、また副流煙(受動喫煙)や大気汚染からからだを守り、抗酸化食品を積極的に摂取するなどして病気を予防することが可能です。これを遺伝子―環境因子相互干渉作用と呼んでいますが、遺伝子の働きには生後の環境因子が最も大切であることを意味しています。
 一方で、近年生殖工学が進展し、匿名の第三者の卵子からの体外受精などによって誕生した人については遺伝的な背景に対する情報が少なく、体質について考えることは困難です。今後さらに増加する傾向にありますが、この場合には自身の「からだからのサイン」を修得し、自分なりの健康法を身に付けると、よい結果につながるでしょう。

5.危険因子からの予防(自己防御:遺伝的素因、食生活、アレルギ-、タバコなど)
 「体質を知る」ことと共通しますが、ここでは体質とは異なって、人間として、日常生活の上で必要な対処について延べます。例えば夏の猛暑の中を活動したりすると熱中症のリスクが高まりますが、そのようなときに水分、塩分の補給を怠らず、また帽子などを被ることによって熱中症からの予防できます。同じように紫外線等の環境因子だけでなく、食べ物などの生活因子等、経済・産業・文明の発展に伴って、健康を脅かす多くのリスク因子が満ち溢れていますが、これらのリスク因子からの予防、すなわち自己防御が現代社会に住む私たちにとって大変重要です。

6.からだからのサインを習得する(早期診断:感染症、遺伝病、癌、生活習慣病の予防)
 妊娠可能な女性は排卵後、基礎体温が上昇します。これと同じように、体内に異物が侵入したり、異物が発生したりすると熱が出ます。これらはすべて、からだからのサインを意味していますので、これを早く自覚することによって、その場への対応が可能になります。特に後者の場合に、熱が出たからと言って無理をすると、本来すぐ治るべきものが病気となって長い間寝込むことになります。からだは異常を起こすとすぐに何らかのサインを体に伝えます。そのサインを修得し、早目に対処することによって、自然治癒力が増して、感染症、遺伝病、癌、生活習慣病、ストレス病等の予防につながります。

7.環境の向上を図る(生活・社会環境の改善、ストレス解消、スローライフなど)
 こころとからだの健康は自らが考え保持し、常に最適な状態を維持しなければなりません。すなわち、自分の体は自分で守ることが、今求められています。例えば、アレルギー体質であれば、体質を改善すべく、生活環境・習慣を見直し、自分に合った環境の向上を図ることによって、多くのことが改善されます。そのような努力が日々必要であるという意味です。環境の改善によって、また新たな問題が出てきた場合は、あきらめないで再度検討することが重要で、自分自身が納得するまで、前向きに健康を意識して生活・社会環境の改善に取組むことが大切です。人間環境についても同じで、十分にコミュニケーションを取り、環境の向上を図ることによってストレス解消が果たされます。

8.自然との対話(自然環境との融合、マイナスイオン、アロマテラピー、音楽など)
 日本は木造建築の中に3世代が住むのが通常でしたが、戦後のコンクリート住まいの中に少数住む共稼ぎ夫婦といった核家族や一人住まいが進展し、家族のコミュニケーションも少なくなりました。このような無機的な住まいの中に観葉植物や木製の家具、またはペットとして小鳥や金魚などの生物をコンクリート部屋の中に同居することによって、私たちと同じ遺伝子を共有することができます。そのことは、自然環境との融合を意味し、遺伝子同士の不可思議なコミュニケーションが起こり、気分が楽になったり、ストレスが解消されたりすることがあります。私たち自然界に住むすべての生物はすべて共通の遺伝子を持ってそれぞれの種族が保存されています。したがって、本来自然の中で済むことが一番の快適環境ですが、産業の発展と同時に私たちの身の回りにはプラスチックやコンクリートなどの無生物が生活環境に満ちあふれております。そのような中にあって、ちょっとした自然環境の融合がストレス解消に大きく役立つことがあります。

9.生きがいを見出す、夢を持つ(趣味、家庭、仕事等将来設計、希望、明日に向かって)
 人生50年の時代から80年の時代に突入している。女性でいえば、更年期以降30年以上の平均寿命を要している。少子化、核家族化の今日、幼児期、学童期、思春期、青年期、成人期、中年期、高齢期といった、それぞれのライフステイジにおいて、生きがいや夢を持つことが大切な時代に突入しています。生きがいや夢を持つことによって当面の目標が設定され、明日への希望が出てきます。とくに男性の定年退職後の生き方においては、ボランテア活動などをすることによって、いつも教育(今日行くところがある)と教養(今日用事がある)を心がけ、人のために自分が必要であると思うことと毎日目的を持つことが一番の生きがいとなることでしょう。

10.自信を持つ、前向きである(免疫、こころの機能維持)
 生きがいを見出す、夢を持つとも共通していますが、ここでは、とにかくも一歩前に進むことが大切であることを言っています。前に進めば、必ず結果がついてくる。結果が出れば、自信につながり、次の行動への対応が可能となります。それを繰り返していると、生体の機能は前向となり、自然治癒力も向上し、ストレスもよい方向に働き、免疫力も向上し、こころの機能維持につながります。成功体験がないからと言って、自信を喪失しないで、身近なことから一歩一歩前に踏み出していく力が必要です。そうすれば、いつの日か、自信へとつながり、必ず、成功体験を獲得し、大きく前進する力となります。

11.概日リズムを守る(約1日のリズム、バイオリズム、睡眠リズムなど)
 地球における生命の誕生以来、生命は太陽のリズムに従ったいのちのリズムが獲得されてきました。すなわち、地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがあります。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(Circadian rhythm, 概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっています。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切です。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、何らかの病気となってあらわれてきます。

12.感謝の気持ちを持つ(健康への感謝とこころへの感謝)
 いのちに対する感謝、家族への感謝、仕事に対する感謝、人間関係に関する感謝など人間としての基本を考えることです。この世の中は自分を取り巻く環境が日々変化しています。そんな中で、言葉の使い方が最も大切です。こころは言葉の影響を最も受け易いため、日常的に前向きな、きれいな言葉を使うよう心掛けるようにすれば、一日が大変充実して、楽しくなります。
(近藤雅雄:平成27年8月12日掲載)

有害元素5.鉛(Pb)

 鉛の使用量は1991年で42万トンと言われているが、その大部分は蓄電池製造用に、残りは無機薬品、はんだ、鉛管、鉛板などに利用されている。わが国の産業現場では作業環境の改善と鉛予防規則による健康診断の実施が行われているが、零細な職場での慢性鉛中毒やときには漢方からの鉛中毒が散発しているので、以下のことを認識し、中毒症状が出現した場合は適切な処置をとることが必要である。
 鉛は粉じんまたはヒュームの形で存在することが多く、気道が主たる進入経路で、その40~50%が肺に取り込まれ、体内に残留すると考えられている。血流中の鉛の大部分が赤血球とともに存在し、全身の臓器や組織に運ばれる。特に、骨への蓄積の割合が大きく約90%を占めるが、大部分は不活性の形で沈着する。骨への平均滞留時間は27年と長い。
 吸入された鉛の一部には、経口摂取され消化管に入るものもあるが、消化管からの鉛の吸収は5~10%で、ほとんどは腸管を素通りして糞便とともに排泄される。その他、不感蒸泄、汗、落屑皮膚、脱落毛、爪などへも排泄される。

1.中毒の発症機序
 生体内ヘム合成・代謝系の酵素、とくに5-アミノレブリン酸脱水酵素と鉄導入酵素を強く阻害するため、ポルフィリンの代謝異常を中心とした様々な中毒症状が出現する。

2.中毒症状
 鉛中毒の主要症状は、貧血、腹部症状、神経症状の三つである。
腹部症状としては便秘、下痢、食欲不振、腹部膨満感、悪心、嘔吐、腹部の鈍痛、圧痛と多様な症状を引き起こす。特に鉛疝痛といい、小腸の痙攣性収縮に伴う発作性の激しい腹痛をおこす。神経症状としてはしびれ、筋力低下、筋萎縮などの末梢神経障害、頭痛、めまい、見当識障害、錯乱、意識障害などの中枢神経障害(鉛脳症)を起こす。その他、鉛顔貌(顔面が蒼白、貧血)、歯肉の鉛縁(歯肉への硫化鉛(PbS)の沈着)、垂れ手(下垂手)など、症状は多彩である。

コラム
○下垂手(垂れ手)

 鉛中毒の特徴的症状であり、指、手関節の伸展ができなくなり、両腕が垂れた状態となる(いわゆる幽霊の手)。垂れ足も起こる。すなわち、日本の幽霊は鉛中毒であり、肌が白いことが美人として呼ばれた時代に化粧として鉛白を利用していたことが原因であろうと思われる。現代は勿論、鉛白は使用されていない。(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素4.ヒ素(As)

 ヒ素は金属精錬、合金添加元素、特殊ガラス、農薬、顔料、半導体などに使われており、これらの製造に関与している人の場合、年に2回の健康診断が義務付けられている。ヒ素による毒性は、化学形に依存しており、一般に無機ヒ素は毒性が強く、有機ヒ素は毒性が弱い。海産物中のヒ素の多くは有機ヒ素化合物であり、人が摂取しても速やかに尿中に排泄される。また、無機ヒ素が微量に取り込まれたとしても、肝臓中でメチル化され尿中に排泄される。
 日本人が常食しているひじきには発がんのリスクが指摘されている無機ヒ素を多く含有している(22.7mg/kg)。そこで、英国食品規格庁(Food Standards Agency, FSA)は2004.7.28に英国民に対してひじきを食べないように勧告し、厚生労働省でも食品安全委員会、農林水産省など関係省庁と連携し、国際的な状況など調査を開始しようとしている(2004年)。

1.中毒の発症機序
 3価または5価のヒ素が、体内でシステインのチオール基(SH基)などに結合することにより、これを含む酵素やタンパク質の機能(とくにATP合成酵素と、呼吸鎖系酵素)を阻害するためと考えられている。

2.中毒症状
 急性中毒症状として、嘔吐、血性下痢、激しい腹痛などの胃腸障害(コレラ様下痢)、頻脈、血圧および体温低下などの基礎代謝の低下、痙攣、呼吸麻痺などの麻痺型の症状、腎不全、黄疸、末梢神経炎などが起こる。
 慢性中毒症状では全身の倦怠感、爪、毛髪の萎縮、欠損、皮膚の角化および色素異常(黒皮症)、鼻中隔穿孔、気管支炎、多発性神経炎(脚気)、発熱なども起こる。

コラム<中毒例>
○森永ヒ素ミルク事件

 1955年の夏に岡山、広島県を中心に起きた食品汚染による中毒事件。被災児は12,131名にのぼり、発熱、嘔吐、皮膚の色素沈着、黄疸などに苦しみ、130名が死亡した。生き残った者も、身長が同年齢平均より明らかに低く、脳波の異常所見や難聴の出現率が高いなどの重大な影響が残った。粉ミルクの安定剤に使用していた第二リン酸ソーダに、3~9%混入していた亜ヒ酸ソーダ(NaAsO2)が原因である。

有害元素3.水銀(Hg)

 水銀は無機、有機の形で広く利用されている。無機水銀としては各種の電極、計器、医・農薬、歯科用アマルガム、水銀灯などの製造、有機水銀としては種子の消毒薬、防黴剤、医薬品などの製造、殺菌剤などの製造に従事しているヒトは年に2回の健康診断が義務付けられている。
 水銀の代謝は、無機水銀は一般に腎臓に最も多く蓄積し、腎障害を引き起こす。次に肝臓に蓄積するが、脳にはあまり蓄積せず、中枢神経障害例はほとんどない。呼吸による吸収率は、75~80%に対し、経口による腸管吸収は5%以下と低い。全身の生物学的半減期は29~60日で、腎の生物学的半減期は、全身のそれよりも長い。一般に腎に集中する傾向があるが、低濃度投与では、水銀は胆汁および糞便中に排泄され、投与量の増加とともに尿中への排泄率が高くなる。
 有機水銀であるメチル水銀は、95%が腸管に吸収される。体内蓄積はほぼ全身に一様であるが、脳、肝臓、腎臓にやや多く、脳では低レベルでの蓄積障害がみられる。逆に、摂取されたメチル水銀の半量が体外に排泄されるのに約70日もかかり、毎日摂取し続ければ、摂取と排泄が等しくなるまで体内蓄積は増加する。

1.中毒の発症機序
 無機的水銀の毒性はタンパク質のSH基と結合し、細胞機能としての解糖系、酸化還元系、また神経伝達系などの酵素機能障害が原因とされるが、メチル水銀の作用機序は必ずしも明らかになっていない。
 ヒトが食物とともにメチル水銀を摂取すると、胃液の作用で塩化メチル水銀(CH3HgCl)となり、これから塩素の電気陰性度が高いためにCH3Hg+が生じ、これがタンパク質や酵素に含まれるSH基に強く働き、H+の代わりにS-に強く結合するため、タンパク質や酵素の機能が阻害される、と考えられている。

2.中毒症状
 無機水銀によるものと、有機水銀によるものとに大別される。両者の間には症状、病理所見、中毒の原因となっている毒物の体内分布(臓器親和性)、生体内滞在時間などに違いが見られる。

1)無機水銀中毒
○急性中毒

 口内炎、消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢)、流ぜん(よだれをたらすこと)、腎臓の細尿管壊死が起こる。腎障害(無尿、尿毒症)でしばしば死に至る。水銀蒸気を吸入した場合、呼吸器が冒され、肺炎などを起こす。

○慢性中毒
 主として神経症状があらわれる。流ぜん、唇や歯茎の青い変色、歯の抜け落ち、頭痛、めまい、記憶障害、不眠、極度の内向性、情緒不安定(いらだち、不機嫌、怒りやすい)、神経過敏などの精神症状、振せん(手指の震え。順次、まぶた、唇、舌、頭、手足などに及ぶ)言語障害、歩行障害、運動失調などが起こる。ただし、アルキル水銀中毒のような強い運動失調や視野狭窄(メガホンで物を見るような)は起こらないとされている。

2)有機水銀(メチル水銀)中毒症状
 低レベルでの蓄積障害は、脳にのみあらわれる。脳の細胞膜が溶解し、大脳下部から細胞が破壊(軽石、空洞化)するので、回復不可能の中毒障害となる。
 症状は四肢・全身のしびれ、視力障害、難聴、自律神経・神経障害、運動失調、知覚障害、視野狭窄、言語障害が起こる。重度になると精神障害にまで及ぶ。催奇形性、遺伝的毒性があり、胎児期に大量暴露を受けると脳性麻痺、痙攣、盲目が起こる。これらの症状は、短期暴露者では、一時回復するが、長期暴露では不可逆的である。

コラム<中毒例>
○水俣病

 1953年~1960年に水俣湾沿岸の漁業家族に見られ、百数十人もの患者と、その内3分の1強の死者を出した。また、先天性水俣病22名を出した。これは無機水銀の有機化によるメチル水銀を生物濃縮して多量に含んだ魚介類を食べたために起きたものである。同様の事件が、1965年、新潟県阿賀野川沿岸でみられ、新潟水俣病(第二水俣病)と呼ばれている。

○イラクの種麦水銀中毒事件
 1971年秋から1972年にかけて、イラクで集団発生したメチル水銀中毒。6530人が病院に収容され、そのうち459人が死亡したといわれている。これは、多数の農民がメチル水銀で消毒した種小麦を自家製のパンにして食べたことが原因であり、臨床症状の細部においては水俣病像のそれと必ずしも一致しない。日本では、この中毒事件の2年後、1974年から種子の消毒に水銀剤が一切使われなくなった。(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素2.カドミウム(Cd)

 精錬、加工、電池製造、顔料、はんだ、銀蝋、合成樹脂の安定剤などの作業に従事する場合は年に2回の健康診断が義務付けられている。カドミウムの主たる暴露経路は吸入と経口摂取で、亜鉛と同様に小腸から約6%吸収される。しかし、カルシウムやタンパク質、鉄が欠乏していると、10~20%程度にまで上昇する。
 カドミウムの代謝の特徴は、体内蓄積性が高いことである。カドミウムの生物学的半減期は8~30年と長く。体内のカドミウムのうち、その約3分の1は腎臓に、また6分の1が肝臓に蓄積する。腎臓に蓄積したカドミウムは腎臓の細胞を破壊するため、腎障害を起こす。

1.中毒の発症機序
 カドミウムは亜鉛と化学的性質が類似し、そのため、生体中の多くの亜鉛含有酵素の亜鉛とカドミウムが置換し、酵素の阻害を起こす。また、細胞中のタンパク質のイオウと非特異的に結合するため、生体内のイオウ(含流アミノ酸)を含む多くの酸化還元酵素の活性を阻害する。

2.中毒症状
カドミウムは呼吸器を強く刺激するとともに、腎障害を引き起こす。多量経口摂取時には、催吐性がある。

1)急性中毒
 カドミウムのフュームに暴露すると、咽喉頭、気管の刺激症状、胸痛、頭痛、咳、呼吸困難(間質性肺浮腫)が、経口摂取により胃腸症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢)が生じる。また、悪寒、脱力感なども起こる。時には重症な肺炎を引き起こし、死亡する例もある。

2)慢性中毒
 中毒症状として、肺気腫、腎障害(尿細管不全)、たんぱく尿を3大徴候とする。呼吸器、消化器に関連した自覚症状を訴え、門歯、犬歯の歯茎の縁を取り巻く黄色環を認めることがある。
 呼吸器の症状としては鼻粘膜の潰瘍、無嗅覚症、肺気腫症状がみられる。
 腎症状は、尿細管機能障害によって低分子量のたんぱく尿、腎性糖尿、尿中アミノ酸の増加、尿濃縮力の低下、高カルシウムおよび燐尿、尿酸性化障害、高塩素血症、アシドーシス、低燐血症が認められる。その他、低血色素性貧血、肝機能障害、骨塩代謝異常など。
 疫学的研究によって、カドミウム作業者に肺と前立腺のがんの増加が認められている。ある動物実験では、肺がんと吸入によるカドミウム暴露との間にはっきりした量-反応関係が認められている。また、非常に高濃度に暴露された動物に催奇形性の影響が報告されている。

コラム<中毒例>
○イタイイタイ病
 
 富山県の神通川流域で、足腰に限られていた痛みがやがて全身に広がり、咳をしただけでも骨折するほど骨がもろくなり、骨の萎縮のために身長が20cm以上も低くなる、といった症状を呈する病気が発生した。
 この病気は1955年(昭和30年)にイタイイタイ病と名付けられ、1961年には、神通川上流の工場廃液、神通川流域水田土壌、農作物、河川魚類、イタイイタイ病患者の臓器や骨中に、カドミウム、鉛、亜鉛が高濃度に含まれていることが明らかになった。
 カドミウムの慢性中毒のもっとも顕著な症状は腎障害で骨軟化症は含まれていないが、イタイイタイ病ではカドミウム中毒による腎障害の結果、カルシウム・リン代謝異常が起こり、その結果、骨軟化症が引き起こされたと考えられている。

<カドミウムと亜鉛との関係>
 カドミウムは自然界において、亜鉛鉱とともに産出されるなど、亜鉛とともに行動することが多い。これは、両物質の化学的性質が類似していることに起因する。しかし、主体においては亜鉛とカドミウムは拮抗作用(薬物等を併用した場合、互いに薬効を減らす作用)を持ち、亜鉛をあらかじめ投与しておくとカドミウム毒性は軽減される。(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素1.ベリリウム(Be)

 ベリリウムは工業用酸化ベリリウム(BeO)の製造、合金の製造に用いられ、これら作業に従事している場合は年に2回の健康診断が義務づけられている。
 ベリリウムの粉塵、フューム等は、肺から吸収されるものがほとんどで、消化器からの吸収率は低い。肺内から侵入したベリリウムの大部分は、血液中を移動し、骨や軟部組織に蓄積する。また、肺組織内、特に肺リンパ節内にも長期間残留する。体内に侵入したベリリウムの殆どは糞中へ排泄される。
1.中毒の発症機序
 生体内の重要な酵素類、特にアルカリ・ホスファターゼの阻害により、リン酸塩の代謝に影響を与える。また、核酸代謝系の酵素障害によって細胞増殖と複製を阻害する。

2.中毒症状
 ベリリウム症、ベリリウム病などと呼ばれる肺症状を伴う全身性の肉芽種性疾患を発症する場合があるが、ベリリウムに対する感受性には、個人差が大きい。
1)急性ベリリウム症
 急性中毒としては接触性皮膚炎および皮膚潰瘍、眼結膜炎、咽頭炎、気管支炎、肺炎などの障害が起こる。呼吸器障害(咳、痰)、労作時の疲れ、胸部痛と、食欲不振、全身倦怠感。症状が軽い場合には、風邪症状が出現する。また、可溶性ベリリウム化合物が皮膚に付着すると、接触性皮膚炎が、不溶性ベリリウム化合物が創傷面に付着すると、潰瘍や皮下肉芽腫が発症する。

2)慢性ベリリウム症
 慢性中毒としては肺肉芽腫性変化による慢性ベリリウム肺、皮下肉芽腫が起こる。呼吸器障害が主で、徐呼吸、慢性的な咳、発熱、血痰、胸と関節の痛み、心拍数の上昇、食欲減退、体重減少、疲労感、全身倦怠、全身衰弱などの症状が出現する。末期にはチアノーゼや心不全を伴う。
 心機能不全を伴う右心房の拡張、肝腫、脾腫、湾曲指肝機能障害、腎臓結石、骨硬化症、肉芽腫を伴う慢性肺炎、肺がんも認められている。(ただし、ベリリウムによる肺がんの誘発は動物腫に対して特異性が高く、ウサギ、ハムスター、モルモットなどの実験動物では、腫瘍は認められていない)
胸部X線写真像上にベリリウム肺として知られる特異な変化が出現する。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

有害元素とは(環境医学)

 必須性が確認されてないが、微量で急性あるいは慢性中毒を起こすミネラルとしてベリリウム(Be)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、ヒ素(As)、鉛(Pb)が広く知られている。このうち、水銀による水俣病、カドミウムによるイタイイタイ病、ヒ素によると宮崎土呂久事件はわが国の産業衛生の歴史上重大な公害病として語り継がれていかなければならない。
 また、これら金属に関連した職業に従事しているヒト、または従事していなくてもこれら金属は私たちの生活環境中に身近に沢山存在しており、これら金属中毒を起こす可能性はいつでも存在しているので、日頃からこれら有害元素についての基礎知識についても学習しておく必要がある。
 たとえば、和歌山カレー中毒事件や茨城の飲用水によるヒ素中毒事件など、また、他の金属による身近な装飾品からの接触皮膚炎、さらに必須元素であっても、サプレメントとしてセレン、クロム、亜鉛などなど過剰摂取することによって発症する中毒症例が多く報告されている。

 ミネラルの場合は他の栄養素と異なって、微量でも中毒を起こすことを念頭に、サプレメントとして摂取する場合は、成分を調べた上で(ほとんど記載されていないが)サプレメント含有当該元素による副作用(過剰症、あるいは中毒症状)を十分に考慮し、もしも症状が出現した場合には直ちに必要な処置を取ることが重要である。(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)

苦瓜(ゴーヤ(沖縄))

 ウリ科ツルレイシ属蔓性1年生草本で、果実に特有の苦みがあり、食用としての風味となっている。熱帯アジアが原産地で、中国や東南アジアでは重要な野菜となっている。ヨーロッパでは観賞用として栽培されている。日本では南西諸島と南九州で多く栽培されてきた。比較的害虫に強く、日照、気温と十分な水さえあれば、肥料や農薬はほとんど使わなくても収穫が得られるため、全国的な広がりを見せ、家庭菜園でも人気が高い。
沖縄では古くからゴーヤ(苦いうりの意味)と呼ばれ、夏の重要な野菜である。

1.主な成分と効果
 果皮を中心に、ビタミンC、ビタミンB1、B2、葉酸、カリウム、カルシウム、鉄、食物繊維が豊富。種子には共役リノレン酸を含む。
苦み成分はチャランチンとモモルデシン、コロコリン酸であり、チャランチンとコロコリン酸は植物インスリンともいわれ、血糖値の正常化に働き、糖尿病の血糖値改善(食後高血糖改善)に役立つ。動物およびヒトで、肝臓や筋肉へのブドウ糖の取り込みを促進し、グリコーゲンの合成を促す。
 科学的根拠としては、糖尿病患者に苦瓜を投与すると空腹時血糖や食後高血糖が改善されたとする報告は数多くある。また、動物実験において、糖尿病改善効果、抗ウイルス作用、抗炎症作用、コレステロール低下作用、抗癌作用なども報告されている。
1)チャランチン
 脂溶性の物質であり、膵ランゲルハンス島のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を促し、血糖低下作用が知られている。血糖値が下がった場合は、α細胞からグルカゴンを分泌し血糖値を上昇させ血糖値を安定させるので低血糖にならない。すなわち、インスリンとグルカゴンの分必を促進し、血糖値を調節する作用がある。
2)モモルデシン
 抗酸化作用をもつサポニン類の一種で、食物繊維、苦味成分の1つ。食物繊維は腸内の善玉菌の増殖を促進し、糞便量を増やし、腸内環境を整える。サポニンはコレステロールや老廃物を排出し、動脈硬化、糖尿病、がんの予防、胆汁酸の分泌や産生を促してコレステロール値を低下させる。血糖値や血圧を下げ、食欲増進作用、整腸作用などがある。
3)ビタミンC
 抗酸化作用があり、苦瓜100g中にビタミンCが76mg含まれ、加熱に強い。
4)共役リノレン酸は脂肪の吸収や蓄積を抑制する。
5)その他
 ビタミンBはエネルギー(ATP:アデノシン三リン酸)の生産に不可欠であり、疲労回復、皮膚や粘膜を正常化に役立つ。鉄分と葉酸は貧血を予防する。カリウムは腎臓でナトリウムの排泄に働く。

2.注意事項
 サプリメントとして摂取する場合、健康被害や副作用は知られていないが血糖低下作用があるため、効果の現れやすい子どもや高齢者では注意が必要。また、妊娠中や糖尿病患者の場合は医師に相談する。腹痛や下痢といった消化器症状、頭痛などが現れた場合は服用を見合わせる。
(近藤雅雄:平成27年8月11日掲載)
 

ラクトフェリン

 1939年、ベルギーにて牛乳成分の中に赤いたんぱく質が発見され、乳(ラクト)と鉄(フェリン)からラクトフェリンと命名された。
 ラクトフェリンは哺乳動物の乳に含まれている多機能タンパク質で、母乳中にも含まれ、生れたばかりの赤ちゃんが、母親から受け継いだ抗体により、風邪などの病気にかかりにくくなっている。特に初乳には5∼8g/L含まれ、通常の母乳の2~3倍多く含まれている。初乳を飲むことによって感染などに対する抵抗力を持つ。
 効果としては、微生物の増殖を抑える抗菌作用、大腸菌などの悪玉菌の増殖を抑え、ビフィズス菌などの善玉菌の増殖を促進する。その他、抗炎症作用、免疫強化、抗ウイルス作用、がん予防、がん転移抑制効果などが知られている。(近藤雅雄:平成27年8月7日掲載)

クロロゲン酸

 コーヒー酸(カフェ酸ともいう)とキナ酸のエステル化合物。コーヒー豆から初めて単離され、現在ではエゾウコギ、多くの双子葉植物(ナス科、セリ科、キク科に多く見られる)の種子や葉から見いだされている。コーヒー豆中5〜10%近く含まれ、含有量はカフェイン(1〜2%)よりも多い。
 クロロゲン酸はポリフェノールの一種で、コーヒーの苦味や香りを出したり、ゴボウなどの野菜の切り口を茶色く変色させたりする成分。食品加工中の褐変や変色の原因となる。
 クロロゲン酸の効果としては、抗酸化作用、消臭効果、発癌性物質の生成を抑える効果、胃潰瘍発生予防効果、老化防止効果、ダイエット効果などが報告されている。
 しかし、コーヒーに含まれているクロロゲン酸量は微量で、コーヒー1杯には、約0.1gのカフェインが含まれている。しかも、クロロゲン酸は熱に弱く、200℃以上で焙煎するとコーヒー酸とキナ酸に分解され、生コーヒー豆中に含まれるクロロゲン酸量は5%以下になるという。したがって、コーヒーを飲んでも、カフェインは摂取できるが、クロロゲン酸はほとんど摂取できない。だから、コーヒーを飲んでいても痩せない。(近藤雅雄:平成27年8月7日掲載)

食生活と栄養と食育

戦後70年における「住」「食」環境の変化がもたらしたもの
 戦後の経済や生活環境の発展は言うまでもないが、ここではとくに生活の根本的な「住」と「食」との部分での変貌について展望する。
 戦前までの日本は3世代や4世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていたが、戦後は、核家族政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立、これが現在、定着するようになった。そして、代々引き継がれてきた様々な伝承が時代とともに薄れ、集団から個人の社会へと変化した。
 とくに、食生活の面からみると日本が長い年月を通して形成してきた日本型食生活から、西洋・中国・東南アジアなど世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代となった。
 このように「食」と「住」という根本的な部分での生活様式を大きく変え、先進国の一員として競争・発展してきたが、逆に、今日では、日本は世界で最も自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な環境に対して無関心な国民が増加している。また、貧富の差が増し、少子・高齢化という少数単位での生活環境がからだとこころをますます脆弱化している。

次代をになう乳幼児・子どもの生活・行動の変化
 近年の核家族・少子化に伴って就労女性が増え、育児休暇などの問題が噴出するようになったが、現実は育児休暇をとることは難しく、そこで託児所や保育園が急増するようになった。しかし、最近の厚生労働省研究班の調査では「保育園で過ごす時間の長さは子どもの発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが子供の発達を左右する」という結果(とくに乳児期に神経細胞が急激に増殖するため、この時期に正しい栄養や生活環境を獲得しておかないと神経回路の形成に影響が出るといわれる)を報告している。
 子どもたちはといえば、親を含めた社会の期待が学力中心の過保護社会へと変化し、塾通いをする一方で、狭い居住空間に閉じこもってコンピューターゲーム、テレビ、マンガに夢中になり、からだを動かさない生活やレトルト食品、コンビニ食品を摂取するという生活様式が定着し、子どもの知力、体力、運動能力の低下が問題となっている。
 さらに、最近の子どもおよび若者は感動することおよび感動して涙を流すことが少ないと言われている。涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間としての特有の生理現象である。涙を流すことによって心が洗われるとよく言うが、最近のTVでも現在の人間模様を反映してか、一過性の虚楽を求めるものやお笑いが蔓延し、涙を誘うドラマなどがきらわれ、少なくなっている。
一方、このような現状が生じているにもかかわらず、国家を挙げてIT化が推奨され、幼児教育からコンピュータが導入され、小学生でも携帯電話を持っているように、IT関連ツールは日用必需品となり、「孤立」、「エゴ」が蔓延し、デジタル型からアナログ型に移ろうとしている。読書の方はと言えば既に漫画時代といったアナログ型が定着している。食生活の面では「孤食」が定着しようとしている。
 こうした現実は、とくに次世代をになう子どもたちの体力の低下、書字能力の低下、計算能力の低下、記憶能力の低下、対人技術の発達の遅れなどが起こり、日本および地球の発展・未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子どもは成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てるべきである。

「食育」の重要性
 そこで、上記した諸問題を真摯に受け止め、改善の方向性を探ると、最も基本的で緊急を要する課題は乳幼児期からの「家族」としての食生活のあり方である。すなわち、育自・共育の精神を持って正しい食生活をすれば健全な家庭生活を送ることができる。しかし、食生活のあり方を一歩間違えれば生活習慣病や摂食障害などの精神障害をまねき、さらにこれが遺伝的体質として次世代へも引き継がれかねない。
 こうした中、食と栄養の専門家である服部幸應氏は「食育」と言う言葉を流行させ、次の日本を作っていくためには「食育」がいかに大切であるかについての教育活動を展開し、2007年食育基本法の制定に貢献した。そこには「食育」に対する強い信念が伺えられる。
 一般に、現代人は、食に対しては好きなものを好きなときに、あるいは今あるもの(または残り)を取り寄せて食べているのが実情であり、食あるいは栄養に対する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。私たちは、食を通してからだとこころの成長が図られることを忘れてはならない。団欒のある楽しい食生活やおいしい食べ物を摂取した時の自然と笑みがこぼれる幸福感を忘れてはならない。すなわち、「食育」は「職育」であり、幼児期であれば正しく成長するために、子どもであれば、知識を学習するために、大人であれば、それぞれの任務・責任を遂行するために、つまり生涯についての重要な営みである。

生活にリズムをつける
 例えば、エネルギーの貯蔵組織である脂肪細胞が増殖する時期にはリズムがあり、生涯において3回存在する。最初は、妊娠末期3ヶ月の胎児期で、この時期に母胎内から外界に出るために必要なエネルギーを蓄えることが出来るように脂肪細胞数が増える。2回目は生後1年以内の乳児期で、この時期に誕生と同時に外界において生存、成長していくために必要な脂肪組織を作り上げる。そして第3回目は思春期である。これらの時期に生活のリズムが乱れ、過食すれば当然脂肪細胞の数は増え、肥満となり、生体のリズムは乱れる。一度増殖した脂肪細胞は生涯減少しない。
 私たちの住む地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経系のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっている。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切である。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、さらに生体恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)が崩れ、病気となる。

いまこそ「食生活」の見直し、教育・学習が必要であり、この期を失うと未来への損失は計り知れないものとなる
 生命維持において最も基本的で根本的なものが「食」であり、正しい食生活を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。
 まさに、「知識の消化吸収は人生最大の栄養素となり、多くの知恵を生み出す」ように、健全な食生活から得られるものは計り知れない。すなわち、「食生活と栄養」に対する知識を得ることによってからだとこころを大切にし、団欒などから知恵を引き継ぎ (親からの伝承など)、生きる術として大切な善悪の判断、感謝する素直なこころを持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」なこころで「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力とこころを持つようになる。これがさらに、次の世代に引継がれていく。(近藤雅雄:平成27年8月1日掲載)

社会の変貌と大学における科学教育 

 さて、戦前までの日本は三世代や四世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていた。しかし、戦後の都市化および核家族化政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立し、一極集中化した結果、代々綿々と受け継がれてきた様々な伝承・文化が時代とともに薄れ、「集団」から「個人」の社会へと変化した。また、住居は植物という有機体を主とした木造建造物から無機物である鉄筋コンクリートに変わり、日本古来の生活環境が大きく変化した。さらに、食生活の面では日本型食生活から、欧米など世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代へと変化した。
 このように「家族」、「食」と「住」という生活の根源的な部分で大きく変貌し、一見、豊かさを増したように思われるが、逆に、日本は世界で有数の自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な機能的合胞体に対して無関心で脆弱な国民が増加している。また、格差が増し、超少子・高齢社会という少数単位での生活環境がからだと心をさらに脆弱化している。こうした現実は、とくに次世代をになう子供たちの「対人技術の発達の遅れ」など各種脳力の低下が起こり、日本の未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子供は成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てなければならない。
 一方で、相変わらず先端産業技術開発の進展は著しく、専門とする分子生物学方面を見ても、2003年に既にヒトの全遺伝子情報が解読され、それ以降、ヒトゲノムの塩基配列において、どの多型や変異が病気の発症や体質を決定するかを解明する「ゲノム機能学」や「テーラーメイド医療」、生命をシステムと捉え、それをコンピュータで解析、シミュレーションするという「システムプログラム生物学」、さらにES細胞、iPS細胞の多機能性維持の分子機序の解明や分化誘導の細胞内シグナル伝達系の解析による「再生医学」研究が地球規模で取組まれている。しかし、これら研究技術は悪用すれば瞬時に生命圏、地球の破壊に繋がる。
 大学は教育における最終的な人格形成機関である。教養を基礎に専門性を育てる機関である。しかし、全入時代となった今日、大学の質と量に対するさまざまな改革、グローバル化が行われているが、教養の空洞化が年々大きく拡大し始めているように感じてならない。人間社会と科学技術の発展との間に大きなジェットラグが生じているのが現状である。
 大学で働く教育・研究者は、中途半端な人材育成だけは避けていただきたい。技術はあくまでもツールであって、ことの本質を見誤ることなく、善用することが大切であり、そのためには自然科学と人文科学の融合が必須であり、基本的教養の再構築、温故知新(文化の保存、伝達、創造)、知的コミュニティの強化、文化の多様性の確保が大切である。基本的教養を身につけることは、生きる術として大切な善悪の判断、感謝し奉仕するといった素直な心、さらに、前向きに生活技術の工夫を行う知恵と将来を夢見る心を持つことであり、「自由」な心で「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力と心を持つ大学生の育成を心がけてほしい。(近藤雅雄:平成27年8月1日掲載)