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食生活と栄養

戦後60年における「住」と「食」環境の変化がもたらせたもの
 戦後の経済や生活環境の発展は言うまでもないが、ここではとくに生活の根本的な「住」と「食」との部分での変貌について展望する。
 戦前までの日本は3世代や4世代が同じ屋根または敷地内に住むという大家族社会が当たり前で、「家」という継承の体制が確立されていたが、戦後は、核家族政策によって居住空間が細分化し、アパートやマンションあるいは小スペースの一戸建て住居が乱立し、少数家族あるいは単身世帯が確立、これが現在、定着するようになった。そして、代々引き継がれてきた様々な伝承が時代とともに薄れ、集団から個人の社会へと変化した。
 とくに、食生活の面からみると日本が長い年月を通して形成してきた日本型食生活から、西洋・中国・東南アジアなど世界中の料理、ファーストフードやいわゆる健康食品というものを自由に取捨選択できる豊かな自由型食生活へと変わり、いつでも食べたいときに好きなものが食べられる時代となった。
 このように「食」と「住」という根本的な部分での生活様式を大きく変え、先進国の一員として競争・発展してきたが、逆に、今日では、日本は世界で最も自殺率の高い国となると共に国家や組織、家族など様々な環境に対して無関心な国民が増加している。また、貧富の差が増し、少子・高齢化という少数単位での生活環境がからだとこころをますます脆弱化している。

次世代をになう乳幼児・子供の生活・行動の変化
 近年の核家族・少子化に伴って就労女性が増え、育児休暇などの問題が噴出するようになったが、現実は育児休暇をとることは難しく、そこで託児所や保育園が急増するようになった。しかし、最近の厚生労働省研究班の調査では「保育園で過ごす時間の長さは子供の発達にほとんど影響せず、家族で食事をしているかどうかが子供の発達を左右する」という結果(とくに乳児期に神経細胞が急激に増殖するため、この時期に正しい栄養や生活環境を獲得しておかないと神経回路の形成に影響が出るといわれる)を報告している。
 子供たちはといえば、親を含めた社会の期待が学力中心の過保護社会へと変化し、塾通いをする一方で、狭い居住空間に閉じこもってコンピューターゲーム、テレビ、マンガに夢中になり、からだを動かさない生活やレトルト食品、コンビニ食品を摂取するという生活様式が定着し、子供の知力、体力、運動能力の低下が問題となっている。また、OECD(経済協力開発機構)が32カ国の15歳児、約26万5千人を対象に行った学習到達度調査(2000年)では「毎日趣味で読書をしている」という問に対して日本の子供の55%がしていないと回答し、参加国中最も少ない結果が報告されている。
 さらに、最近の子供および若者は感動することおよび感動して涙を流すことが少ないと言われている。涙はこころから湧き出てくる体液であり、他の動物では見られない人間としての特有の生理現象である。涙を流すことによって心が洗われるとよく言うが、最近のTVでも現在の人間模様を反映してか、一過性の虚楽を求めるものやお笑いが蔓延し、涙を誘うドラマなどがきらわれ、少なくなっている。
 一方、このような現状が生じているにもかかわらず、国家を挙げてIT化が推奨され、幼児教育からコンピュータが導入され、小学生でも携帯電話を持っているように、IT関連ツールは日用必需品となり、「孤立」、「エゴ」が蔓延し、デジタル型からアナログ型に移ろうとしている。読書の方はと言えば既に漫画時代といったアナログ型が定着している。食生活の面では「孤食」が定着しようとしている。
 こうした現実は、とくに次世代をになう子供たちの体力の低下、書字能力の低下、計算能力の低下、記憶能力の低下、対人技術の発達の遅れなどが起こり、日本および地球の発展・未来において計り知れないほどの損失が生じるという危惧感を抱く。子供は成長につれて知力や体力も自然とついてくるという錯覚を捨てるべきである。

「食育」の重要性
 そこで、上記した諸問題を真摯に受け止め、改善の方向性を探ると、最も基本的で緊急を要する課題は乳幼児期からの「家族」としての食生活のあり方である。すなわち、育自・共育の精神を持って正しい食生活をすれば健全な家庭生活を送ることができる。しかし、食生活のあり方を一歩間違えれば生活習慣病や摂食障害などの精神障害をまねき、さらにこれが遺伝的体質として次世代へも引き継がれかねない。
 こうした中、服部幸應氏は「食育」と言う言葉を流行させ、次の日本を作っていくためには「食育」がいかに大切であるかについての教育活動を展開しいる。そこには「食育」に対する強い信念が伺えられる。
 一般に、現代人は、食に対しては好きなものを好きなときに、あるいは今あるもの(または残り)を取り寄せて食べているのが実情であり、食あるいは栄養に対する科学的な知識は殆ど持ち合わせていないのが現状である。私たちは、食を通してからだとこころの成長が図られることを忘れてはならない。団欒のある楽しい食生活やおいしい食べ物を摂取した時の自然と笑みがこぼれる幸福感を忘れてはならない。すなわち、「食育」は「職育」であり、幼児期であれば正しく成長するために、子供であれば、知識を学習するために、大人であれば、それぞれの任務・責任を遂行するために、つまり生涯についての重要な営みである。

生活にリズムをつける
 ここで、面白い科学的根拠を述べると、エネルギーの貯蔵組織である脂肪細胞が増殖する時期は生涯において3回存在する。最初は、妊娠末期3ヶ月の胎児期で、この時期に母胎内から外界に出るために必要なエネルギーを蓄えることが出来るように脂肪細胞数が増える。2回目は生後1年以内の乳児期で、この時期に誕生と同時に外界において生存、成長していくために必要な脂肪組織を作り上げる。そして第3回目は思春期である。これらの時期に生活のリズムが乱れ、過食すれば当然脂肪細胞の数は増え、肥満となり、生体のリズムは乱れる。一度増殖した脂肪細胞は生涯減少しない。
 私たちの住む地球には時間や周、月、季節の各リズムがあるように、生体にも同じ時間的な体内リズムがある。1日のリズム(これをサーカディアンリズム(概日リズム)という)には食生活(摂食)のリズム、睡眠のリズム、自律神経系のリズム、免疫のリズム、内分泌のリズムなどがあり、生体の機能維持にとって重要な働きとなっている。したがって、これらのリズムを知り、生活にメリ・ハリをつけることが大切である。生活のリズムが崩れると生体のリズムも崩れ、さらに生体恒常性維持機能(これをホメオスターシスという)が崩れ、病気となる。

いまこそ「健康生活」の見直し・教育・学習が必要であり、この期を失うと未来への損失は計り知れないものとなる。
 生命維持において最も基本的で根本的なものが「食」であり、正しい食生活を維持・継続することによって生体のリズムが構築され、知識や技術の向上が図られる。さらに、健全なからだや精神(感謝)という個人レベルの健康だけでなく、健全な社会が構築され、延いては国家が元気となる。
 まさに、「知識の消化吸収は人生最大の栄養素となり、多くの知恵を生み出す」ように、健全な食生活から得られるものは計り知れない。すなわち、「食生活と栄養」に対する知識を得ることによってからだとこころを大切にし、団欒などから知恵を引き継ぎ (親からの伝承など)、生きる術として大切な善悪の判断、感謝する素直なこころを持つ。さらに、前向きに生活の工夫を行う知恵などを持ち、将来を夢見るこころを持つようになる。そしてこれらの習得が「自由」なこころで「正当性」、「責任」を持って、「平和 (社会)」に貢献できる体力とこころを持つようになる。これがさらに、次の世代に引継がれていく。この美しい地球の上で展開されるすべてのストーリーは人の力によって起こることを知るべきである。

本書の作成と利用に当たって
 健康とは、健康を「意識」することによってはじめて獲得することが可能である。その意識の確立は生体の機能を維持し、そして健全な健康生活リズムを獲得し、ヒト、生物、社会、組織、家族、国家、民族、地球を愛するこころを持つことができる。このような背景を基に本書を作成した。
 本書は「健康」に興味を持つ一般人を対象としてまとめたが、多少専門的で、難解な箇所もある。しかし、内容を熟読いただき、少しでも「食と栄養・健康生活」の重要性をご理解いただければ幸甚である。また、本書に対する忌憚のないご批判、ご助言をお寄せいただき、今後とも時代に応じて本書の内容を書き改め、ますます使いやすい教科書として成長していくことを切に希望している。
 本書の構成は、全3章からなり、第1章では「食生活と健康」と題し、公衆栄養学の権威者である梶本雅俊氏に執筆いただき、ここでは「食育」に対して、専門家の立場から広範囲に「食生活と健康」に関して洞察いただいた。第2章の「栄養と健康」は食品・栄養学の専門家である柘植光代氏に基礎的な栄養素の知識についてご執筆いただいた。そして第3章「サプリメント」は編者が担当し、サプリメントの行政的な対応を含め、最近注目されている栄養成分について整理した。
 文尾になったが、本書の趣旨に賛同して、研究教育に多忙な中を執筆いただいた各章の執筆者の方々に心から感謝する。また、第2章の「必須性が認められないミネラルやミネラルの歴史・概要のまとめ」については太田麗氏と栗原典子氏に、第3章の「主なハーブ類とその効能」は東栄美氏に、「アロエ、アガリスク、プロポリス食品、ウコン」は玉應聡子氏に、それぞれ資料の収集及び執筆を頂いた。ここに深く感謝する。さらに、本書作成に当たり、計画・実行・ケアーといった全過程において極めて綿密・緻密にご指導いただいた日本実業出版社の松尾由子に深謝する。さらに、本書作成にあたり、㈱ダーツ皆様にきめの細かい配慮をいただいた。ここに厚く御礼申し上げる。

近藤雅雄編著(全174ページ、2005年1月10日発行)、オリエント・メディカル出版
「著者:近藤雅雄 独立行政法人国立健康・栄養研究所室長、梶本雅俊 相模女子大教授、柘植光代 宇都宮大学非常勤講師、玉應聡子 按摩・マッサージ・指圧師、東栄美、太田麗、栗原典子 独立行政法人国立健康・栄養研究所非常勤職員」
食生活と栄養2005
本書の内容は以下の通りです。

第1章 食生活と健康(梶本雅俊)
1.健康と栄養
2.現代社会の健康と公衆栄養
3.健康日本21
4.栄養学総論
5.栄養状態の判定
第2章 栄養と健康(柘植光代)
1.食品と食物
2.食品の種類と成分
3.主な栄養素
第3章 サプリメント(近藤雅雄)
1.サプリメントの概説
2.特定保健用食品
3.栄養機能食品(ビタミン類とミネラル)
4.健康補助食品
5.主な健康補助食品
6.主な栄養成分
7.健康食品Q&A